ボール型
ある日、一隻の宇宙船が地球に降りた。
いや、落ちたと言った方が正しいか。
街中にそこそこの大きさのクレーターができた。
怪我人はいない。宇宙局が事前にレーダーで宇宙船の存在を確認。
落下地点を予測できていたため、周辺住民の避難は完了していたのだ。
集まった役人や研究者が宇宙船を取り囲むように並び、そしてハッと気づくと慌てて散らばった。
威圧感を与えてはならない。
目的は宇宙人と友好関係を築くこと。
レーダーでわかってはいたがこうして見ると、やはり小さい宇宙船だ。
彼らが昆虫のように小さい宇宙人でもなければ一人乗りだろう。
そろそろ近づいても良いだろうか。
しかし、中で子犬のように怯えていたら?
もう駄目だ。捕まり研究、解剖……とでも勝手に思われ
自爆スイッチでも押されたら敵わない。では、花束でも抱えて近づこうか?
と、そうこう考えていると扉が開いた。
いや、蹴破られたというべきか。
中から出てきたのは長身の宇宙人。
人型だ。これなら意思の疎通が可能かもしれないと、その場にいた者は胸を撫で下ろした。
宇宙人は背筋を伸ばしたり、体をほぐしたりしている。
宇宙船が窮屈だったと単純に考えるよりは、余裕があるところを見せていると思われた。
そう、あれは彼らの外交テクニック。自分たちの方が上だと暗に示しているのだ。
恐らくあの宇宙人は彼らの惑星からの使者。
相当なエリートなのだろう。
そう考えた政府関係者は丁重に彼をもてなした。
言葉の壁はあったが幸いにも身振り手振りで伝わったため、誘導ができた。
だが。
「またです長官」
「また例の癇癪か、なんてわがままなんだ……」
「どこまでそのわがままが通じるか試しているのでしょう。
こちらもそろそろ強気に出ないと交渉のときに不利かもしれませんね」
「しかし、それで外交問題になれば事だ。やはり慎重に。
せめて言葉がわかるようになるまではな。
お、博士。どうですか? 彼が乗ってきた宇宙船のほうは」
「それなんだが……一言で言えば野球ボールですな」
「ほう……? まあ確かに球状に近いものでしたが、しかしボールとは?」
「あれについた推進機能はお飾り程度のもので操縦することもできない。
恐らくあの宇宙船は母船から射出されたものだと思います」
「と、いうことは彼らの母船が近くにあるということかな。
もしかしたらこちらの様子をモニターしているのかもしれないな」
「いや、私が言いたいのは――」
「は、博士! 外を!」
部屋に駆けこんできた博士の助手に促され
博士たちは建物の外に出て、空を見上げた。
そしてその流星群を見つめ、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「この星は彼らのいたところからすれば凄く田舎だろうな。
我々にとって、それこそ電気も通ってない辺境の島。
罪人を流すのに打って付けの……」




