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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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399/705

初めに探偵が殺された

「人狼ゲームの定石って知ってる? 人狼側の。ん? 知らない?

人狼の正体を暴くことができる占い師をなるべく早めに殺すってことなんだけど」


「……何が言いたいんだよ?」


「いやぁ、言いたいことはわかるよぉ」


「う、うん」


「でしょ? まさか……名探偵が真っ先に殺されるなんてね……」


 雄大な自然に囲まれた坂の上にある廃墟となった洋館。

私たち映画研究会はそこに撮影をしに来ていた。

 現役大学生探偵である彼も忙しい身ながら、この活動に久々に参加し

私たちは少々浮かれ気分だった。


 しかし、そこでまさかの殺人事件が起きたのだ。

そして……最初に殺されたのが、この大学生探偵の彼であった。

どんな謎も解き明かし、事件は必ず解決すると評判の彼をまず殺すのは当然ともいえる。

 しかし、そうなると一体この中の誰が殺したか。

 そして本当は誰を殺したいのか。

そう、まだ事件は終わっていない。悲しむのは後だ。

気をしっかり持ち、今ここで犯人を見つけ、残りの三人で取り押さえる。

そうしなければ次に殺されるのは自分なのかもしれないのだから。


「アイリ。お前じゃないのか?

急に人狼ゲーム云々の話をし始めてなんか怪しいじゃないか!」


「は? 私なわけないじゃない! それにそのどこが怪しいの?

むしろ逆でしょ! 犯人の思惑を暴いたんだから!」


「どーだかな! 犯人だからこそ、そんな考えが浮かんだんじゃないかって言っているんだ!」


「はぁ!? ふざけないでよ! アンタこそ何! そんなに私に黒にしたいわけ!?」


「まあまあ、アイリもイトダもぉ落ち着きなよぉ」


「ウシヤマ。お前はどうなんだ? この中で一番体格が大きいし、力もある。

探偵を殺すくらい楽勝じゃないか?」


「そうね。彼、護身術だって身に着けているって前に話していたし

私やエミに殺せるとは思えないわ。ね? そうでしょエミ」


「う、うん……」


「いやいやぁ、待ってよぉ。もし僕が犯人だとしたらぁ君たちをこの場で殺しちゃうよぉ?

うん、三人ともひ弱そうだしぃそれくらいできそうだぁ」


「怖!」


「と、とにかく水掛け論になりそうね……」


「ね、ねえ。ほ、他に犯人がいるってことはないかな?

探偵だし、う、恨まれているかもしれないし……」


「いや、それはないだろう。俺たちがここに行くことを知っている者は

俺たち以外にいないはずだ。口止めしただろ? 何せ廃墟とはいえ、不法侵入だからな。

仮に後をつけてきたとしても、坂の上にあるこの廃墟は見晴らしがいい。

たとえ、距離をとっていたとしても車には気づけたはずだ」


「まぁ、絶対じゃないけどぉ犯人はぁこの三人の中の誰かだろうねぇ」


「さり気無く自分を容疑者から外すな! 今のところお前が一番怪しいからな!」


「カ、カメラに何かう、映ってるとかないかな?」


「そんな本格ミステリーじゃぁないんだからぁ。それにぃ撮影前だったじゃないかぁ」


「そうね、各々探索していたところだったわ。

自然とバラけていて誰かとずっと一緒だったって事はないからアリバイの立証は難しいわね」


「け、警察にれ、連絡を……」


「はぁ、圏外だっての。わかるだろ」


「じゃ、じゃあ四人で、な、仲良くこ、ここから車で出るっていうのは?」


「冗談じゃない! 犯人がこの中にいるのに背中なんか向けられるかよ。

そうだ! 俺が車で電話が通じるところまで行くから

お前ら三人がここでお互いを見張っていろよ」


「それこそ冗談でしょ。アンタが犯人じゃないとは限らないじゃない。

中々戻ってこないので様子見に行ったら後ろからグサリとか

それかここに火をつけるとか有り得るわ」


「僕はぁ構わないよぉ。両手に花だなぁふふふ」


「……身の危険も感じるし」


「冗談だよぉ」


「それにしてもエミ。探偵のやつを放置していくなんて結構冷たいんだな。

もしかしてお前が犯人じゃないのか?」


「そんな、違う!」


「また黒塗り? アンタこそ人狼なんじゃないの?」


「は!? ふざけんな! 何をかばって……いや、そうか。犯人が一人とは限らないからな。

もしかしたらお前ら女子共が組んで……」


「はぁ……馬鹿ね。人狼が二人残った時点で人狼側の勝利決定なんだから

こうして話していられるわけな――」


「だからゲームじゃないっての! どんだけ好きなんだよ!」


「わ、わたしはアイリのこと、よ、よく見かけたからアイリは人狼じゃないとお、思う」


「エミ……あんたいい子ね。ほーれよしよし。私が狩人であんたを守ってあげるわ」


「へへへ」


「そもそも人狼じゃなくて犯人な。アイリはエミの事見かけたのか?」


「うーん、まあチラホラね。まあ暗いからよくわかんないわね」


「く、暗い……」


「性格の話じゃないわよ!」


「いやぁ、根暗でしょぉ。たまにイライラしてぇ殺したくなるもん」


「あんた、吊人? 吊られたいの?」


「だから、ゲーム用語わかんないっての!」


「そ、そもそも本当にし、死んでいるのかな? わ、悪ふざけとか」


「はぁ!? この喉の傷を見てみろよ! 真ん中にグサリだぞ! それにこの顔!

これで死んでないわけないだろ!」


「そ、そうよエミ……死んでいるわ。このナイフも偽物って訳じゃなさそうだし。

まぁ、警察が調べる前に余り触らないほうがいいって、前に彼も話していたし

そうよく確認はしてないわけだけど」


「アイツの受け売りって訳だな。

まったく、こういう時一番頼りにしたいのに死んでいるなんてな。

ああクソッ! 正直お前らを疑いたくねえよ!」


「うん……」


「はぁ、もぅ、面倒だからぁ僕が三人をねかせて一人で脱出しちゃおうかなぁ」


「こ、怖」


「お、落ち着け。俺もだが、死体を前に全員動揺しているんだ」


「死体……霊能者」


「は? 何言ってるんだエミ」


「霊能者って言うのはね、処刑されたプレイヤーが人狼か否か知ることができる役職よ。

でもそれがどうしたの?」


「か、彼が、人狼だったってことはないかな、なんて」


「だから何を――」


「うーん、人狼はシステム上、自分を噛むことはできないわ」


「だからゲームじゃないっての。つまり……お?」


「何、その紙?」


「い、いしょ……?」


「……ああ、どうやら名探偵として世間に祭り上げられたのがプレッシャーだったらしい。

最期は一人で死ぬんじゃなくて親しい仲間たちの近くで死にたかったと」


「そ、そう……」


「まあ、新聞の見出しの事件解決時間がどんどん短くなっていったものね。

『現代の名探偵! わずか五分で解決!』とか急かされているように感じていたのかも」


「それにぃ事件現場に立ち会ってぇ死体をたくさん見てぇ、心を病んだのかもぉ。僕はぁ平気だけどねぇ」


「だから怖いのよアンタ。さ、何にせよここに一人ぼっちで置き去りじゃ可哀想だわ。

車に運んで一緒に帰りましょう」


「だな。迷惑かけてすまないってよ。まったくしょうがねえな」


「うん……」


「まかせてぇ死体を運ぶのはぁ得意なんだぁ」


「もう、ツッコまないわよ」


 こうして、私たち四人は廃墟を出ました。

坂の上から見下ろす森は夕闇に染まり、死が広がっていくようでした。

 死体を後部座席に寝かせ、車を走らせると

自然と私たちは、殺された大学生探偵のあの男との思い出話に花咲かせました。

本当に、あの男は仲良しだった。



 ……これであと、残り二人。

遺書は手書きじゃないから、もしかしたら警察は疑うかもしれないけど

そう、すぐには動けないでしょう。

 じっくり、あせらずに。人狼が殺すのは一日に一人だけだものね。

 あなたと二人きりになれるまで、邪魔者は全員殺すわ。

 ああ、誰にもいえない恋。

 早く全てを終わらせて、あ、あなたに伝えたい……。

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