透明な棺と少女
「・・・・・・わたし・・・・・・わたしはそう、ガラスの棺のようなものの中に入っていたの。
動けなかったわ・・・・・・そして、そう、七人。七人の・・・・・・小さい・・・・・・
ああ! わたしのことを見ているわ・・・・・・」
「それから、どうなりましたか」
「それから・・・・・・ああ、おかあさんが! やめて! ああ! おかあさん! いや!」
「しぃー、落ち着いて、大丈夫。ここは安全です。リラックスしてください。
さあ、私の言葉を繰り返して。ここは安全、ここは安全」
「ここは安全、ここは安全・・・・・・」
少女はそう繰り返し呟きながら深い眠りに落ちていった。
その様子を部屋の隅の方で見ていた刑事は
組んでいた腕をほどき、医者に近づいた。
「で、どうですか先生。逆行催眠とやらは上手くいきそうですか?」
「ご覧になったとおり。まあ、多いケースなんですが
昔受けた虐待の記憶が蘇ってしまったようですね」
「・・・・・・彼女の母親がひどい女だという事は捜査の中でもうわかっている。
首を紐で絞めたり、ナイフで傷つけたり、更に毒を入れた料理を食べさせていた。
ただ上手く立ち回り、周りには献身的な良い母親と思われていたようだ」
「代理ミュンヒハウゼン症候群ですな。
まったく理解しがたい。こんなに美しい子なのに・・・・・・」
「だからこそ、嫉妬していたのかもしれないな。
それで、どうなんです? 行方不明になった彼女の母親については。
何か聞き出せないんですか?」
「どうにも難しい。特に貴方が想像しているようなことは言い出さないでしょうな」
「と、言うと?」
「彼女が母親を殺し、どこかに隠したと考えているんでしょう?」
「・・・・・・可能性の一つですよ。少なくとも彼女の言い分。
宇宙人に母親と共に攫われ自分だけが返された、なんて話は信じがたい。
刑事としても、一人の人間としてもね」
「ええ、仰ることはわかりますとも。ですが今はそっとしておきましょう。
ようやく、悪しき魔女から解放されたんですから」
「魔女・・・・・・ね。まあ、いいでしょう・・・・・・では何かわかったら連絡を下さい、では」
刑事は部屋を出て行った。
医者はその背中が病院から遠のくのを窓から確認すると
大きく息を吐き、眠る少女にそっと近づいた。
「・・・・・・私の可愛い姫よ。もう大丈夫だ。私が必ず守ってあげるからね。
さあ、私の言葉を繰り返して。
君とお母さんは宇宙人に攫われたんだ。
それから七人の小人・・・・・・七人の宇宙人が君の周りにいた」
「わたしとおかあさんはうちゅうじんに・・・・・・しちにんのうちゅうじんが・・・・・・」
医者は初めて彼女に会ったときの事を思い浮かべていた。
幸薄そうな美少女。怯えながらも見せた笑顔。
痣のあるその腕に抱えていたボロボロのお気に入りの童話の本。
そして、優しく話しかけ続け、ようやく傷の原因が
母親からの虐待だと話してくれたあの日。
ああ、私の白雪姫。
悪しき魔女は私が殺した。
君がその光景を思い出すことはない。この先もずっと・・・・・・。




