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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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第一発見者はお前

「う、嘘だろ・・・・・・」


 つい、そう声を漏らした俺は慌てて口を押さえた。

今の声、向こうの部屋にいるあいつらには聞こえなかったよな?

自分がどれだけの声量で呟いたか、もう忘れた。

ただ、震えていたことは確かだ。ああ、今もだ。

足先から血の気が引いていく感覚。うぅ、吐きそうだ。

 これが、本物の死体・・・・・・。

 ミツグ・・・・・・友達の一人が

こっちに・・・・・・まるで助けを求めるかのように部屋のドアに向かって

手を伸ばすように倒れている。

 部屋の電気はついていない。

廊下の灯りしかないから良くは見えないけど

顔の周り、カーペットに染みているのは血だ。

 頭を殴られてそれで死んだ?

 ・・・・・・部屋の電気をつけ、じっくり観察している時間はない。

 俺は左右を見渡し、廊下に誰もいないことを確認すると

ドアをゆっくり、静かに閉めた。

 そして、当初の予定通り、トイレに向かう。

 中に入り、便座に腰を下ろした。


 叔父の別荘。

気の合う友達連中と泊まりに来たのは良かったが

まさか殺人事件なんて・・・・・・。


 そして・・・・・・。

 まさか俺が第一発見者になるなんて・・・・・・。


 有り得ないだろう。まさかこのタイミングで・・・・・・!

ついさっきまでリビングでみんなで一緒に見ていた推理ドラマ。

その犯人が第一発見者の男だったのだ。

 

 この状況、真っ先に疑われるのは・・・・・・俺だ。

飛躍しすぎ? いいや、何もドラマだけの話じゃない。

現実でも警察が事件の第一発見者を候補に挙げるのは周知の事実。

 こんなことなら具合が悪いから一足早く部屋で休むと言ったアイツの様子を見にいこうなんて

気遣いをするんじゃなかったんだ。

 

 ・・・・・・待てよ。リビングを出るときに俺はただトイレに行くとしか言っていないよな。

ごまかせる・・・・・・か?

見なかったことに・・・・・・。

 そうとも、少なくとも朝になれば見つかるはずだ。

今見つけようが後だろうがどうせ大して変わらないさ。

ミツグには悪いが面倒事は御免だ。





「ん、遅かったな。ウンコか?」


「ウンコマーン」


「ウンコメーン」


「・・・・・・馬鹿、小学生かよ。あと、あんま汚れた手でベタベタ触るなよ。

そう、そのボトルシップとかもし壊したりなんかしたら叔父さんに殺されちゃうからな」


 俺はリビングを見渡しながらそう言った。

この部屋の戸棚には叔父の趣味のボトルシップがズラリと並んでいる。

甥っ子の贔屓目に見てもいい出来だ。

 俺はソファに座り、ポップコーンに手を伸ばした。

・・・・・・うん、特に追及はされないな。大丈夫。

あとは部屋の空気に溶け込むだけだ。


「そういえば、ミツグの奴大丈夫かな」


 ポップコーンがポトリとカーペットの上に落ちた。

 おいおい、何を動揺しているんだ俺よ。

これじゃ、まるで犯人じゃないか。


「あ、ああ、そ、そうだな。誰か様子を見てやったらどうだ?」


 よし、我ながらナイス判断。

これで誰かにあの死体を見つけさせれば・・・・・・って本当に犯人みたいな考えだな。


「あー、じゃあ私行こうかなー」


「ヒューヒュー」


「うっさい黙れ」


 モモカがそう言いながら部屋を出た。

あと数秒できっと悲鳴が上がるぞ。

ははっ、まるで花火を見る気分だ。盛大なのを頼むぜ。キャァァァァ! ってな。

 そら、そろそろだ。三、二、一・・・・・・・・・・・・うん? まだかな。

・・・・・・遅いな。驚きすぎて声も出ないのか? それか気絶?

・・・・・・あ、戻ってきたぞ。


「あ、モモカ。ミツグは?」


「あーそういえば部屋を知らなかったなー」


「いや、探せばいいじゃないか」


「えー、面倒。マサヤ、アンタが探せばいいじゃん」


 ・・・・・・嘘だ。あの棒演技。

マサヤとメタボの奴は気づいていないのか?

 メタボはそのあだ名通り、食うことに夢中のようだ。

 マサヤは・・・・・・こいつ、顔はいいけどどこか抜けているんだよな。

と、思ったらやっぱりだ。

マサヤは特に反論せず、それもそうかと部屋を出ていった。


 モモカのあの様子。絶対、ミツグを見つけたはずなのに

まさか自分が第一発見者になりたくなくて?

 クソッ、悲劇のヒロインを気取れるチャンスなのに辞退しやがって。

やっぱ、あのドラマの影響だな。疑われることを警戒しているんだ。

と、言う事はやはり見つけた事を黙っていて正解だったな。

きっとあいつが率先して疑いをかけて来たに違いない。

 ま、何にせよ、これでマサヤがミツグを・・・・・・お、戻って来たな。

ん? なんで黙って・・・・・・。


「え、お、おいマサヤ。どうした?」


「いやぁ? 別にぃーどうもしてないけどどどど」


 コイツもかぁー! しかも演技が下手!

モモカも恐らくマサヤの不自然さに気づいたはずだ。

ここは追い込みをかけてみるか。


「いや、滅茶苦茶動揺してるじゃん。どうした? 何かぁ・・・・・・見たのか?」


 マサヤはへふぇ? と間抜けな声を漏らしソファに座った。

貧乏ゆすりの振動でガラステーブルがカタカタ揺れた。

いいぞ、俺の揺さぶりが効いたみたいだ。


「な、何か、何、何かってなになに?」


 いや、動揺しすぎだろう。モロバレだぜ?

もう一押しで落ちそうだな。


「・・・・・・見たと言えば、アンタ、トイレ長かったよねぇ」


 な、なんでそれを今掘り返す!

 かばった!?

まさか、モモカのヤツ、マサヤのことが好きなのか?


「だ、だから、それは・・・・・・」


「ウンコ? でもアンタはそれを否定したよねぇ。

じゃあ、どうしてあんなに長かったの? どこか・・・・・・寄り道してたとか?」


「な、なに、何をををを」


 クソッ! 落ち着け俺よ! これじゃマサヤのヤツと同じじゃないか!


「ふー、確かに、気になるな」


 コイツ! 落ち着きを取り戻しやがった!

しかもこの二人、ドラマの影響で腕を前に組んで探偵気取りだ!

 マズイ、マズイぞ!

このままだと俺が第一発見者に仕立て上げられる!

 落ち着け! ・・・・・・そうだ!


「・・・・・・待て。俺が言った事を良く思い出してみろ。

こう言ったんだ『馬鹿か、小学生かよ』ってな」


「それが何よ」


「俺はな、ウンコをしたことを否定したわけじゃない。

それを揶揄するお前らを批判したんだ!」


「つまり、お前、ウンコしたのか?」


「ウンコマーン」


「お前は黙って食ってろ! ・・・・・・ああ、そうさ!俺はウンコを」


「いいえ、嘘ね」


「は?」


「アンタはウンコをしていない」


「何を根拠にそんなことを言っているんだ。証拠を出せ証拠を!」


「私はさっき、アンタの後にトイレに行った。でも臭いは残っていなかったわ!」


「そ、それは、ほら換気が」


「それにしては早すぎるわ。それにしっかりと臭いを嗅いだから間違いないわ」


「嗅ぐなよ!」


「匂いフェチなのよ!」


「嘘つけ!」


「まあ、モモカの言葉を信じるなら、お前はただトイレに長居していただけか?

違うな・・・・・・どこか他の部屋に行っていたんじゃないか?」


「い、いや、待て。俺はただトイレに長居していただけだ。

それを否定すると言うなら、モモカ。お前だってトイレにしては長くなかったか?

そう、トイレに長居することは別に不自然なことじゃない!

それとも・・・・・・お前、トイレじゃなく何かを発見したんじゃないか?

それで動揺を――」


「わ、私は・・・・・・ただウンコしてたのよ!」


「ウンコウーメン」


「うるさいっての! メタボ!」


 コイツ、そこまでして・・・・・・。

しかし、反証できる材料はない。今すぐにトイレに臭いを嗅ぎに行くか?

 いや、女子の恥じらいから十分に換気していたと言われればそれまで。

そもそもさっきからウンコウンコ言っているコイツに恥じらいがあるかは疑問だが

そこは覆せないだろう。

 ・・・・・・ここまでか。

 素直に言うしか・・・・・・


「お、俺――」


「あー、ねぇみんな。ちょっとこっち来てよ。ミツグがさぁー」


 メタボ! いつの間に部屋を出て!

それにまさかお前がミツグを見つけたと言うのか!

いいのかそれで、第一発見者になるんだぞ!

 犯人と疑われ・・・・・・犯人?

 そうだ犯人! 失念していた!

戸締りはしていた。この別荘には俺たちしかいない。

それはつまりミツグを殺した犯人がこの中にいるってことじゃないか!


 当然、俺は違うから犯人はこの三人のうちの誰か。

しかし、さっきのあの二人の動揺っぷり。

第一発見者になることを避けていたことからして消去法で犯人はメタボ?

 でもそれならなぜ今アイツがミツグを?

 誰も見つけない事に痺れを切らして?

 何かトリックを仕掛けていたのか?

それも早く死体を見つけてもらわなきゃ困るようなやつを・・・・・・


「あ」

「え」

「お」


「ほら、ミツグのヤツ、寝ちゃってるよ」


 ミツグは栓の開いたワインを抱え、眠りこけていた。


「叔父さんのワインセラーから盗んだんだなコイツは・・・・・・」


「ふぅー! ま、そんなことだろうと思ったよ」


「まったく、あ、私ウンコしてないからね」


「もうどうでもいいよ。あ・・・・・・このワイン。

確か滅茶苦茶高いやつだ・・・・・・前に叔父さんが自慢してた・・・・・・」


「ど、どうするの?」


「・・・・・・水を足して、そして・・・・・・見なかったことに・・・・・・」

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