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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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太りすぎた男

 男は三十過ぎると一気にくると言うが・・・・・・。

やっぱり、さすがにこれはきすぎだろう。

 俺は自分の腹を見下ろし、はははと笑った。

足先はその分厚い脂肪に遮られ見えない。

原因不明。当初も今も、まったく訳がわからない。

ある日を境に急に太り始めたのだ。


 俺はこれでも昔はモテていたんだ。

慢心せずに筋トレだって怠らずに続けていた。

・・・・・・そりゃ、ちょっとサボッたことはあるが、でも本当にちょっとだけだ。

 この腹が出始めた時に気合を入れ直したんだが

いくら運動しても痩せない。

トレーニングの合間にコーラをがぶ飲みしていたなんてオチもない。

 時には断食だってやった。

なのに痩せるどころか体重は増えていくばかり。

食べたものを余すことなく、この肉に変換しているみたいだ。

そう、思えば太り始めたあたりからトイレに行っていない。

便意どころか尿意すらないのだ。

これは明らかに体の異常だ。

 そう思い、病院に行ったのだが原因不明。

数値は極めて健康的らしい。

物珍しい目で見られたのが何だか嫌で、病院はそれきり行っていない。

ただ、病院だけじゃない。外を歩けば人目を引く。

その頃には体重はもう、力士を上回っていただろう。


 そして俺は・・・・・・諦めた。

湧き上がる食欲に身を委ねることにしたんだ。

ははは・・・・・・どうせもう結婚なんてできないだろう。

笑われたって構うものか。

そんな俺に、友人も引きつった顔で俺と距離を置いた。

まあ、そうだろう。スポーツもできない。映画館も席に座れない。

部屋も狭くなる。暑苦しい。

俺は孤独に死ぬんだ。



 そう思っていた。

しかし、どんな奴にも仲間、同類はいるものだ。

ただ隠れて暮らしていただけなんだ。

俺たちは出会った。一人が二人に、それを見てまた一人と

集まった数は二十人を超え、これまでの事を話しあった。

 いつから太ったか。どんな仕打ちを受けたか。

傷の舐め合い? 結構なことじゃないか。

もう周りの冷たい目なんか気にするものか。

 俺たちは肩を叩きあい、笑い、泣いて、また笑った。

 そうしている間にもみんな、どんどん太っていった。

食事の量は全員同じなのに、だ。

 どうせ他にやることもないし、今日もなぜこうなったのかと頭を捻る俺たち。

腑に落ちるような意見、仮説は出ない。

それでもまあいい。こうして同じ体形で同じことを考えているこの瞬間

一体感が心地良いんだ。


「・・・・・・でも全員、同時期にこの体質になったのは

やはり何か意味があるんじゃないか」


 あ。

 

 こんなところにいるからかもしれない。

それを聞いた俺の頭の中にアリの巣が思い浮かんだ。

 アリの群れにはどう分けても必ず働かないアリが出てくると言う。

つまり予備部隊というわけだ。

いざと言うとき、そのコロニーが滅びないために。

 つまり、俺たちのような太った人間にも何か役目が。

そう、この溜め込んだ脂肪と肉が役に・・・・・・


 ・・・・・・あれ?

 それって・・・・・・。

 そう言えばここ最近、この避難シェルターにいる奴らの俺たちを見る目が冷たい目から・・・・・・

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