未来人登場
今夜は二十年に一度のスーパームーン。
月が綺麗です! ご覧下さい、と手を伸ばし、テレビカメラに微笑むアナウンサー。
スタジオもニッコリと和やかな雰囲気。
・・・・・・が、状況は一変する。
そのアナウンサーの後ろ。何もない空間からバチバチと光が乱れ飛び
そして煙を上げてそこに一人の男が現れた。
口をあんぐりと開けたアナウンサーのイヤホンに指示が飛ぶ。
そう、まず話を聞かないことには何も始まらない。
「あ、あなたは一体・・・・・・」
「僕は未来人さ」
疑う余地はない。
尤もテレビ視聴者はCGだのヤラセだのを疑うだろうが
現場はトリックなしのその登場を目の当たりにしているのだ。
訊きたい事が多すぎて何がなにやら。
それでもアナウンサーは息を呑み、一つ一つ訊いていく。
「あ、あなたのお名前は?」
「好きに呼んでくれたまえ」
「一体、なぜこの時代に?」
「それは言えないね」
「では、お歳は・・・・・・?」
「まあ、見た目どおり若いと言っておこう」
「その、未来とは具体的に何年後から?」
「それは言えない」
「こ、この先起こる事件や何か我々にとって重大なことなどを
教えてはいただけませんか!?」
「それも言えない」
一問一答。しかし明確な答えは返ってこない。
現場の不満げな様子を察した未来人は「別に帰ってもいいんだよ?」
と肩をすくめる。
慌てて笑顔を取り繕ったその時、他のテレビ局の撮影クルーが続々と現場に駆けつけた。
やはり、プロにはあの映像が作り物ではないとわかるのだ。
各局が生中継を始め、視聴者もどうやらこれは本物みたいだぞ、とテレビを食い入るように見始めた。
こうして、本物の未来人登場のニュースはあっという間に全世界を駆け抜け
警官が人払いおよび未来人を護衛し、政治家が媚びへつらいにやってきた。
もはや月なんぞどうでもいい。
一夜明けてもその熱は冷めずに観光を楽しむ未来人を衆人は熱狂し、手を振る。
未来人も悪くないとばかりに手を振り返し、嬌声が飛び交う。
未来人は現代人の質問に一切明確に答えずに
逆に、あれはなんだい? と質問してはその回答に
「古びているねぇ」や「ずいぶん不便だねぇ」と鼻で笑う。
現代人はイライラしながらも何かポロッと未来のことを
口を滑らせはしないかと期待してしまうので誠実に答える。
そして時折、未来人に訊ねる。
「・・・・・・それでなんですが、未来人さん。
そろそろ未来の様子なんかを教えていただくことは・・・・・・」
「うーん、タイムトラベルにおける禁則事項に触れるからねぇ。
何を話していいかよく考慮する必要があるんだよ」
「ええ、ええ、そうでしょうとも。でも・・・・・・タイムトラベルのその方法なんかを」
「おいおい、それこそ教えられないよ。おや?」
「ど、どうしました?」
「そろそろ時間のようだ。それじゃあね」
未来人はそういうと派手な登場シーンとは真逆に
スゥーと消え入るように地味に帰っていった。
ぽかんとした様子で衆人はそれを見つめ、辺りは静まり返った。
一体なんだったんだこの騒ぎは・・・・・・。
そう思い始めたとき、またも空間に光が。
そして現れたのは別の未来人だ。
再び湧き立つ現場。
どうもさっきの彼とは知り合いではないらしい。
同じように質問をはぐらかし、観光を楽しんでいった。
そうした事が何度か繰り返されて
現代人は三つ学んだ。
一つ目は未来人は過去に大きく干渉してはならない。
つまりは未来のことを一切教えることができない。
二つ目は、そう長く滞在できない。恐らく一日が限界だ。
三つ目はどうやらこれが未来の金持ちの若者の流行らしい。
過去に来て我々を見下す、そのことが。




