浦島太郎とウサギさま
むかしむかし、ある村に浦島太郎という若者がいた。
浦島が野原を歩いていると
邪悪な子供たちが、捕まえたウサギさまをよってたかって苛めていました。
見るに見かねた浦島は声をかけました。
「こらこら、いけないよ。ウサギさまは神聖な生き物なんだ。放してやりなさい」
「やーだね! 俺たちが捕まえたんだ。どうしようと勝手さ」
「じゃあ仕方ないな・・・・・・」
浦島はそう言うと悪童たちをコテンパンにやっつけました。
悪童たちは足を引きずりながら泣きべそをかいて逃げて行きました。
そして浦島は助けたウサギさまを優しく抱きかかえ
「もう捕まるんじゃないですよ」と野原に優しく放してやりました。
ウサギさまは美しく、軽やかに去っていきました。
さて、それから二、三日たったある日、浦島がまた野原を歩いていると
「浦島さん、浦島さん」
と、誰かが呼ぶ声がします。
「おや? 誰だろう? どこにもいないようだが」
「わたしですよ」
浦島が辺りを見回すと草の中からウサギさまがひょっこり現れました。
その可憐なお姿に浦島はウットリ。
そしてウサギさまは素敵なお声でこう言いました。
「このあいだは、ありがとうございました」
「ああ、あのときのウサギさまだね」
「はい、おかげで命が助かりました。
ところで浦島さんは、月にある月宮城にいったことがありますか?」
「月? 月ってあの空の?」
「はい、空の上です」
「えっ? 空の上なんて行けるのかい?」
「はい。私がお連れしましょう。さあ、どうぞ、こちらへ」
この間のお礼がしたいと義理堅いウサギさま。
無知な浦島が間の抜けた顔をしてウサギさまの後についていくと
そこに真っ白で平べったい大きなお餅のようなものがありました。
ウサギさまがそれに触れると穴が開き、ウサギさまと浦島は中に入りました。
それからお餅はブゥンと浮かび上がると、ぐんぐん上昇していきました。
あっと言う間に月に到着。
月にはそれはそれは立派な御殿がありました。
「わあ、なんて綺麗なんだ」
「そうでしょうとも。この御殿が月宮城です。さあさあ、こちらへ」
ウサギさまに案内されるまま進んでいくと
この月宮城の主人である美しい月姫さまが
美しいウサギさまたちとともに親切にも出迎えてくれました。
「ようこそ、浦島さん。わたしは、この月宮城の主人の月姫です。
このあいだはウサギを助けてくださってありがとうございます。
お礼におもてなしをさせてくださいな。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」
月姫さまは美しいだけでなく心広く、人間である浦島にも丁寧にお礼を述べ
ニッコリと微笑みました。
浦島はその白さにウットリ。そして月宮城の広間ヘ案内されました。
浦島が用意された席に座ると、ウサギさまたちが次から次へと
見たことがないようなご馳走を運んでくださいます。
心地よい音楽が流れて、ウサギさまたちの見事な踊りと合わさり
それはそれは素晴らしい光景。
天国とはここのことを言うのでしょう。
「さあもう一日、もう一日。ゆっくりしていってくださいな」
と、心優しい月姫さまに言われるがまま浦島は月宮城で楽しい日々を過ごしました。
ですがある日、アホ面でのほほんとしていた浦島はハッと思い立ちました。
家族や友達は、どうしているんだろう?
そこで浦島は、月姫さまに言いました。
「美しい、月姫さま。素晴らしいおもてなしの数々、ありがとうございます。
突然で大変不躾ながら、もうそろそろ家へ帰らせていただきたく思うのですが」
「帰られるのですか? よければ、このままここで暮らしては・・・・・・」
「ははぁ、私も大変名残惜しいのですが、私の帰りを待つ者もおりますので・・・・・・」
すると月姫さまは、寂しそうに言いました。
「・・・・・・そうですか。名残惜しいですが仕方ありませんね。
では、おみやげにこの玉手箱を差し上げましょう」
「玉手箱?」
「はい。とてもとても大事なお宝が入っているのです。
でも、もしまたここに来たいのなら決して開けてはなりませんよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
月姫さまと別れた浦島は、またウサギさまに送られて地上へ帰りました。
地上に戻った浦島はウサギさまに何度もお礼を言った後、帰路につきました。
すると驚きました。
あの野原には家が立ち並び、さらに浦島の家はどこにもありませんでした。
それに出会う人出会う人知らない人ばかり。
「あのぅ、どなたか私の家を知りませんか? 家族は・・・・・・」
浦島は歩く人に声をかけました。
どの人も忙しなく歩き、浦島は散々無視されましたが
一人の老人がようやくそれに応えてくれました。
「浦島太郎? ああ、何でも大昔にこの辺りで行方不明になった人がそんな名前だったとか」
「ええっ!?」
老人の話を聞いて、浦島はびっくり仰天。
月宮城で過ごした数年は、こっちでは数百年にあたるようでした。
「家族も友達も、みんな死んでしまったのか・・・・・・」
どうしてこんなことになったのか。
がっくりと肩を落とした浦島はふと、持っていた玉手箱を見つめました。
「もしかしたら、謎が解けるかもしれない」
お馬鹿な浦島は決して開けるなと仰った月姫さまのありがたい忠告を忘れ
蓋を開けてしまいました。
するとモクモクモク・・・・・・。
中から、真っ白な煙が出てきました。
「ああ、ウサギさまみたいに綺麗な白だなぁ」
浦島ははしゃいで、体一杯にその煙を浴びました。
煙が晴れると中身は空っぽ。
そこに残ったのは髪の毛も髭も真っ白な、ヨポヨポのおじいさんになった浦島だけでした。
でも彼は幸せそうでした。
ウサギさまと同じく真っ白なお毛々になれたんですもの。
めでたしめでたし。
奴らが月の裏側の基地から地球に侵攻し、圧倒的戦力で占領して以降
このように昔話の改変が行われている。
ウサギを称える、それ以外は許されない。
亀との競争でウサギが敗北したなど以ての他だ。
奴らが初めてあの話を知ったときの怒りようといったら・・・・・・恐ろしい。
地球上の亀は抹殺され、姿だけでなくその名前までも本から消したのだ。
この話もその影響で亀からウサギに変わっている。
しかし、この話の根底にある恩人のはずの浦島太郎が受けた理不尽な仕打ち。
月姫こと乙姫のしたことは果たして悪意か否かという疑念はそのまま残すことができた。
「ねぇ、なんでつきひめさまはたまてばこをおくったのー?」
「なんでもっとはやくかえしてあげなかったのー?」
「ふふふっ。浦島さん、可哀想だよねー? ・・・・・・その気持ち大事にしてね」
そう、これはウサギ型宇宙人によって拉致された人間の悲劇を忘れないようにと
メッセージが込められているのだ。
いつの日か奴らを倒す、英雄の誕生と成長を願って
今日も私は読み聞かせを行う・・・・・・。




