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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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励ます幻聴

 やると自分で決めたこととはいえ、今夜は家で大人しく休んでいればよかった。

酷く頭が痛い。熱もありそうだ。

ああ、耳鳴りまでしてきた・・・・・・。


「やぁ、元気かい?」


 耐え切れず、道の端に腰を下ろした僕にかかった声。


「・・・・・・あなたと私で心を一つにして新たな道へ進もう」


 顔を向けた先にあるのは選挙ポスター。

今読み上げたのは心進党のキャッチコピーだ。

白い歯を見せた笑顔の隣に大きく名前が出ている。

 松尾長凛太郎。

もうじき、選挙だ。町のいたるところでこういったポスターが設置されている。


「どうしたんだい? 悩みでもあるのかい?」


 ポスターの松尾長が僕に話しかけてきた。

馴れ馴れしい態度。頭の痛みが増すのを感じる。


「・・・・・・特にないよ」


 無意味な会話だ。

僕は一人で何しているんだか。


「そんなこと言わないで! 僕はね。国民みんなのためにこの身を尽くしたいんだ!

む、さては失恋かな? いや、それとも勉強の悩みかな?」


「・・・・・・じゃあ、失恋で」


「んー! 失恋かぁ。大丈夫、きっといい出会いがあるって!」


 毒にも薬にもならないアドバイスだ。

まあ、仕方がない。

僕の胸を打つような答えをくれるはずがないんだ。


「他には何かあるかなぁ?」


「・・・・・・父さんにしたこと、覚えているか?」


「はっはっは! うーん、他の質問を頼むよ」


「アンタをぶっ潰したいんだけど構わないかな?」


「はっはっは! うーん、他の質問を頼――」


 僕は持っていた石を松尾長の顔に叩きつけた。

電子ポスターは松尾長のクソったれな笑顔の残像を一瞬残し

ジュワッと画面が黒くなりそして完全に沈黙した。



 これで六枚目。だいぶ慣れてきた。


 松尾長は自身に直撃したスキャンダルを全て

秘書である僕の父の責任に仕立て上げた。

 尻尾切りされた父は首を吊り、家族は滅茶苦茶になった。


 ・・・・・・もうすぐだ。もうすぐこの地域で松尾長の街頭演説が行われる。

練習は十分だ。本人を前にしても躊躇する気はしない。


 その場から立ち去ろうとした僕の脳内で声がした。

これは熱による幻聴。

 でも、その声は「必ずできる」と僕を励ました。

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