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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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深夜の大行進

 我慢の限界だ。今それをハッキリと感じた。

あの音、もう耐えられない。頭にヒビを入れらている気分だ。

実際入っているのかもしれん。

頭を掻いたらほら、爪の間に血混じりの皮膚が入り込んだ。

 ああ、ストレスだ。

確かに交通量の多い、道路に面したところの家を買ったとはいえ

今は・・・・・・ほらもう夜中の三時だ。

 ふざけやがって。糞が。死ね。

音からして大型トラック。それの走行音がもう二十分ほど続いている。

こんな夜中に工事か? どこの馬鹿だ。殺してやる。

・・・・・・っとそれは言い過ぎだな。落ち着こう。

まあ、何にせよ文句の一つでも言わなきゃ気がすまない。


 ・・・・・・と、家の外に出てきたが何だってんだ?

トラックの列、終わりが見えないほど連なっているじゃないか。

残り数台とかなら、まあ我慢してやってもいいかなと

上着を羽織っている間に思ったりもしたが

また頭にきたぞ。ああ、イライラする。この騒音。排気ガス! 土煙! ああああ!


「おい! 止まれ! おい! 説明しろ! おい!」


 白線の内側から手を振り怒鳴った。

何台かには無視されたが(轢き殺されるかと思ったふざけやがって)

一台が止まり、男が一人降りるとまたそのトラックは走り出した。

どうやらこの男が説明をしてくれるらしいが・・・・・・

若そうな男だ。オドオドしている。

さてはクレーマーを適当にあしらって来いと上司に言われて降りてきたのだろう。

って誰がクレーマーだ! こっちは睡眠を妨害されているんだ。

訳を訊くくらいは正当な権利というものだ。

 優しく訊いてやるつもりだったが

この騒音じゃ、結局怒鳴っているみたいになった。


「で! この騒ぎは! 何なんだ!」


「いやぁ、あのぉ」


 何だこいつ。平謝りするでもなくゴニョゴニョと。

ああ、怒りがまた湧き上がってきたぞ・・・・・・ううううう!


「見たところ軍人のようだが一体何なんだ!? 怪獣でも出たっていうのか!?」


「うーん、まあ、うーん」


「・・・・・・おいおい、本当に出たのか? ってそんなはずないよな! さっさと訳を話せ!」


 こう訊いてはいるがどうせ相手は下っ端も下っ端。

大した情報は持っていないのだろう。

 それでも何となくはわかっているはずだ。

こうしてわざわざ家の外に出た手前、情報の一つでも持ち帰らなきゃ気が済まない。

それに、もしかしたら明日の朝ニュースになるかもしれない。

『深夜にトラックの大移動!? 一体何が』

なんてテロップでマスコミがカメラを回し

うん、そしたらインタビューとかされるかもしれん。

ここは少々強引にでも情報を聞き出しておきたい。

怒れる市民を舐めるなよ。

しかしナヨナヨした男だ。ああああ、イライラする。


「あー、んー・・・・・・」


「おい! 男ならハッキリしたらどうなんだ!」


「しかし、ですねぇ・・・・・・うーん」


「なあ、お前が漏らしたとは言わないから、少しでもいいから教えてくれよ!」


「うーん、ですがあなたのためともいいますかぁ・・・・・・お戻りになったほうが」


 戻れ? あなたのため? こんな騒音を出しておいて?

・・・・・・ああああああ! もう、完全にキレたぞ。


「うおぃ! だからうるさくて眠れないって話だろうが!

どういうつもりなんだだだだだ! ああああぁぁぁぁ!」


「あ、あ、そんな怒鳴らな」


「うるうるうるさくて聞こえないからだろうが!

いいいいいからお前はさっさと教えればいいんだ!

男ならビシッと決めろ! うううう! イライラする!

あああああぁぁぁ! 死ね! 殴るぞ! 今すぐ死ね!」


「お、落ち着いてください! 話しますから! でもい、いいんですか? 本当に」


「ふーっ! ふーっ! ああ、手短にな! 殺すぞ! ゴミ! カス死ね!」


 ちょちょちょっと怒った顔を見せればこんなもんだ。

 うううう、まったく手間かけさせやがって。

しかししかし、話すと決めたら気分がスッキリしたようだ。

顔に肩の荷が下りたって書いてある。

悩む若者の背中を押してやったってわけだ。あー、いい事をした。

落ち着こう、私も落ち着いて聞いてやろう。


「実は、テロ組織がウイルスをばら撒いたらしくて。

それでこの町を封鎖しているんです。

我々は地下道や抜け道を埋めて、それから壁を建築するための資材を運んでいるという」


「・・・・・・え、え、え? ちょっと待て、ウィー、ウイルス?

ん? らしいってことは確定ではないよな? な?」


「あ、いえ、確定です」


「おお・・・・・・。いや、待て。そそれは嘘だな。

それならなんで防護服やらマスクやらをしていないんだ?

ほら、お前も出鱈目を聞かされているんじゃないかかかか?」


「いえ、もうウイルス自体は沈静化しましたし、空気感染や飛沫感染ではないので

あなた方感染者から感染する恐れも、ほとんどないので」


「あなた方感染者・・・・・・」


「はい、町の住民は全員感染していると思えと言われています。

小さい町なので迅速に封鎖しろ、終わり次第爆撃すると。

あと、血には気をつけろ、感染するとも言われました」


 いつの間にか若者の手には銃が握られていた。

私はどうやら悩む若者に発破をかけてしまっていたらしい。

 求めていた安眠。

それは奴の手によって齎されるということに・・・・・・。

 

 が、が、が私はさっきから押さえているこの衝動を解放してやることにする。

そうなったら後は野となれ山となれだ。

ガリガリガリガリ掻き毟って。

ほら、窓から顔を出してみんな見てるるるるる。

 ああ、そうだ怒れ、怒れよ市民。

 全部、全部ぶっ壊してやろうぜ。

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