カラカラの目
「どうしたんだいミサキちゃん? 固まっているよ?」
「あ、なんでもないでーす!」
「じゃあ、これお願いね」
「はい!」
危なかった。怪しまれるのはまずい。
職場にいられなくなるかもしれない。でも、仕方ないんだ。
私は人の目が苦手なのだから。
そうは言っても視線恐怖症と言うわけじゃない。
目、そのものが恐ろしく思えてしまうのだ。
どういうわけかある日、人の目玉がプラスチックでできているように見えるようになった。
硬く、無機質で生気のかけらもない。
不気味なその目で見られると体が硬直してしまう。
でも医者にも誰にも相談できない。みんなあの目をしているのだから。
それにストレスからくる幻覚と言われるのがオチ。そう、ただの幻覚なんだ。
プレッシャー。きっとこのプロジェクトが終われば良くなる・・・・・・。
「――で、ミサキちゃん。この書類なんだけど」
「え、あ! ごめんなさい! 私ったらうっかり! てへっ! あ」
え、あ、今の・・・・・・。
「もーしょうがないなぁはははは」
上司のタチバナさん・・・・・・何ともないの?
今、確かに私の手が目に当たったのに。
それに今の感触は確かに硬かった。音もカンッ! って・・・・・・。
・・・・・・いや、感触だって錯覚するかもしれない。
でも・・・・・・。
「おーい、ミサキちゃーん? どうしたの? 動きが止まっているよー!」
「あ、はーい!」
今は、この場をやり過すことだけを考えよう。
きっといずれ良くなる・・・・・・。
あれ?
「どうしたーのミサキちゃん? ふふふっみんなが見ているよー?」
あ、あ、あタチバナさんの顔。目だけじゃなくて口も!
それに同僚の皆も、まるでこれじゃ人形みたいにああああ! 手足も!
何で? 私の目、どうしちゃっ・・・・・・私の手も・・・・・・!
「はいはーい! もんだいないでーす!」
え、嘘、私の口、勝手に動いて・・・・・・。
「よーし、じゃあ! みんなで歌おう!」
「はい!」
いや、わたし、うたなんて、いや・・・・・・。
「ちょっと、師匠!」
「・・・・・・あ、ああ。お前か。すまない。さっきは助かった」
「いや、そんなに沈んだ顔されるとこっちも言い辛くなりますよ。ずるいなあ」
「はははは・・・・・・」
「で、どうしたんです? 珍しいじゃないですか、上演中に手が止まるなんて」
「いや、動かそうとしたんだがどうにも・・・・・・」
「ええ? 『ミサキちゃん』壊れちゃったんですか?」
「いや、こうしてチェックしているが特に・・・・・・」
「勘弁してくださいよ。魔術師の名が泣きますって。
まだ師匠には現役でいてもらわないと困りますからね」
「あ、ああ。勿論だ。操り人形師歴五十年、まだまだやるつもりだ。しかし・・・・・・」
「なんです?」
「いや、上演中に人形が勝手に動いた気がして。それに声も聞こえた気が」
「いやいやいや、ないですって。そりゃ、師匠の操りは
『人形がまるで生きた人間のように見える』『魔法がかかってるみたい』
なんて評判ですけど、それは観客の知覚の話で
はははっ、まさか本当に人形に魔法をかけちゃったんですかぁ?」
「いや、まあ・・・・・・ないな」
「そうですよ。さ、片付けて呑みにでもいきましょう」
「ああ・・・・・・」
わたし、わたしは・・・・・・・・・・・・




