バチェラー
ある日、一隻の宇宙船が地球に降り立った。
出迎えに集まった各国の代表が緊張した面持ちで
唾を飲んで宇宙人が降りてくるのを見守る。
なぜ彼らが着陸場所にこうも揃って集合できたのかと言うと
宇宙船は地球に近づくにつれ速度を落とし
まるでどこぞの王様がレッドカーペットの上を歩くように
ゆーっくりと地上に降りてきていたためである。
こうして着陸した今も地球の代表者たちの間では
もしかしたらものすごいのんびり屋の宇宙人で
宇宙船から出てくるのも数ヶ月、さらに喋る速度も遅いのでは?
と懸念が湧き上がっていたが
そんなことはなかった。
宇宙船から出てきたのはずんぐりとしたまるで達磨のような体型の宇宙人
どうやら翻訳機のようなものがあるらしく言葉も通じた。
「やあやあ地球の皆さん、こんにちワ」
「ははあ、どうもどうも。よく地球にお越しくださいました」
心配していた喋る速度も問題ない。
何ならグダグダと喋っているのは地球の代表者側だった。
しかし、緊張しているから口数が多くなるのも仕方がない。
何せこの様子はカメラで全世界に中継されているのだ。
下手をうって怒って帰らせてしまえばどうなるか考えるのも恐ろしい。
しかし、意外にも好感触。宇宙人は手土産を広げ始めた。
「おお」と一同、感嘆の息が漏れる。
それらがどんなものかはわからないが仮にガラクタだとしても喉から手が出るほど欲しい。
たとえ、石ころや土であっても他の惑星のものならそう手に入らない
大変な価値があるのだから。
しかし、どうやらタダではくれないようだ。
実はこの宇宙人、嫁を探しに来たのだと言う。
これは地球人側としては願ってもないこと。
相手の文明レベルははるかに上であることは明白。
これを機に取り入り、交流をしようと考えたのだ。
しかし、問題が一つ浮かび上がる。
結婚相手の女性はどう用意したものか。
聞けばそのまま宇宙船で星までつれて帰るという。
家族とはもう一生会えないかもしれない。
それに、もしかしたら実は酷い奴で向こうでどんな目に遭わされるかもわからない。
まさか無理矢理指名するわけにも行かない。
そんなことをすれば人権団体に噛みつかれる。
宇宙人は時間がかかってもいい、ここで待つというので
募集をかけることにした。
と、さっきまでの懸念はどこへやら。
募集した瞬間に大量の女性が名乗りを上げた。
考えてもみればそうだ。
宇宙人の嫁になる人類初の女性。歴史に名が残るのは違いない。
国どころか世界に大きく貢献することになる。
未知の星にいってみたい体験してみたい。
家族はいない、人生どうでもいい金がない。
と、様々な理由で多くの女性が現地に集まった。
これだけいれば宇宙人の御眼鏡に適うに違いない。
彼らの美的センスは知らないが
世界各国から集まっただけあり、バリエーション豊かだ。
しかし、宇宙人は難色を示した。
「もっとふくよかな女性がいい」
言われてみれば納得かもしれない。
宇宙人の大きな体に似合う女性がここにはいない。
明らかに超肥満体型の女性は複数名いるのだが
その中でも一際大きな女性でも釣り合いが取れているとは言いがたい。
だがそもそもの話、その宇宙人と肩を並べられるような地球人女性はおそらく存在しないだろう。
仮にフォアグラのように無理に食べ続けさせても宇宙人の気に入る体型の女性ができるとは思えない。
頭を悩ませた地球の代表者たちにとある科学者が売り込みをかけた。
科学者が用意したのはロボット。
大きさはちょうど宇宙人と同じくらい。
これならばと映画などで腕を振るう特殊メイクのチームが人間の皮膚や髪を作りこむ。
その結果どこからどう見ても人間の女性が完成した。
まるで獲物を飲み込んだ蛇のようにプックリとしていたが
ふくよかが好みと言ったのだ。これで行くしかない。
さあ、いよいよお披露目の時。
ロボットが宇宙人に向かってゆっくりと歩き始める。
上手くいったとしても、いずれボロが出るかもしれない。
しかし、あの手土産と交換できるなら上々。
文句をつけにまた地球に戻ってきたとしても
どうしても貴方様に喜んでもらいたかったと
涙ながらに謝罪すればきっと許してくれるだろう。
何なら献身的でいい態度だと気に入られるかもしれない。
と、欲に目が眩み、視野が狭まっていたのかもしれない。
詰めが甘かった。
問題が起きたのだ。
ロボットが徐々に歩調を速め、ついには宇宙人に突進したのである。
衝撃音。抱き合うように倒れるロボットと宇宙人。
これには中継を見ていた世界中の人も手で顔を覆った。
終わり。もしかしたら宇宙戦争・・・・・・。
しかし、そう思い始めた時、ちらほら気づき始める。
あの大きな宇宙人・・・・・・何かおかしい。
倒れたまま動かない。
それに思い返せばぶつかったときのあの音、そして飛び散ったパーツの種類。
よく見るとあれもロボットのようだ。
人々はザワザワし始めた。
そして恐る恐る近づくと、突然賑やかな音楽が鳴った。
「ドッキリでした~!」
これには全人類閉口、いや開口。
ぽっかり口を開けたまま黙る現地及び放送を見ている人々に対して
ロボットは倒れたままつらつらと説明をし始めた。
どうやら未開の惑星に降り立ち
そこで無理難題を吹っかけ嘲笑うという宇宙で人気のテレビ番組らしい。
文句の一つも言いたかったが乾いた笑いしか出ない。
そうしているうちに宇宙船は飛び立った。
残されたのは実は地球で言う百均の安い子供のオモチャだという手土産と
ふとっちょ女型ロボット抱き合うように倒れたまま動かない宇宙人ロボット。
何なら手土産だけではなく宇宙人のロボットを手に入れられた分、大きな成果ではあるが
どこか虚しい空気が地球に漂っていた。




