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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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入れ替わり

「フフン、フンフーン」

 

 以前はこんなの考えられなかった。 

鼻歌歌い、上機嫌に夜の街を歩く私をすれ違うみんなが見る。

でもそれは変わった子を見る目じゃない。

いっつもそんな目で見られていたからよくわかる。

 可愛いから見られている。そう、今の私は可愛い。

妹のフリをしている時の私は。


 双子。顔はそっくりでもこんなに性格が違うなんてどうして?

って私たちを知る人全員が驚く。うん、私も驚いちゃう。

常に不安が付きまとい、何をしても上手くいかずオドオドしている私と対照的に

妹は元気で明るく、みんなの人気者だ。

妹が化粧やオシャレを覚えてからは外見も含め、その差は激しくなった。

 双子なのにこうも違う理由、それは能力の差だろう。

運動神経や頭の良さ、それが劣っていれば性格も顔も暗くなるのは当然だ。

どうやっても妹みたいにはなれない。

そう思っていた。


 顔だけは同じ。それが私の唯一の取柄。

 私は妹そっくりに髪を切り、メイクをした。

妹がいない場所限定だけど。

なぜ? 入れ替わるためだ。

 この暗い性格は中々、変えられない。

でも勝手に妹と勘違いして、みんながチヤホヤしてくれる。

自分から発言せずに、笑顔を浮かべて人に合わせて動いていれば

案外ボロが出ないものだと学んだ。

人気者で遊び場が多い妹のことだ。

ちょっと私が妹のフリをしても早々にバレることはなかった。

 勿論、いつまでも続くものじゃない。

きっといつか話の食い違いが出て、バレるだろう。

だからこそ今を思いっきり楽しむんだ。


 そして今日はどうも大事な集まりらしい。これは行くしかないでしょ。


「こんばんはー! みんな、待たせちゃったかなー?」


 慣れたものだ。素の性格も明るくなった気がする。

もうあんなことする必要はないかもしれない。

思い返すと恥ずかしい行いだった。いつか妹に――


「ああ、これで全員だね。じゃあこれ、まずは乾杯」


 手渡された紙コップ。中身はビールっぽい。

こんな駐車場で飲み会?

まあ、妹と友達のような頭の軽い連中はどこでも楽しくやるのだろう。

・・・・・・でもいつもの人たちとは違うというか

むしろ以前の私寄りの人。根暗そうな連中。

 妹の予定帳には『大事なイベント!』

って書かれてたから期待してきたんだけど

つまらなかったら途中で帰ろうかな。

せっかく妹が風邪引いたからチャンスだと思って来たのにな・・・・・・。


「じゃあ、行こうか? いい?」


「あ、はい! おっけーでーす!」


 パーティ会場への車移動? わざわざ集まってから?

うーん。わからない。

でもまあ、いつも通り、不用意に発言しなければ問題ないだろう。

ん?


「あの、これ?」


「ああ、ごめんね。奥へやっちゃって。何せ人数分だからかさばっちゃって」


「いや、ロープなんて何で」


「何でってああ、練炭がいい? 一応用意したんだ。

みんなで吊れるいい木が見つからなかった時の為に」


 それ、まさか、こいつら、自殺の・・・・・・。


 私は知らなかった。妹の心の内。その深層を。

人気者で人生を謳歌していたと思っていたのに

独り、思い悩んでいたんだ・・・・・・。

馬鹿だ私。帰ったら話さなくちゃ。お互いの色々を。

それで謝らなくちゃ。

 でも今は逃げることを考えるのが先。

トイレに行きたいフリをして・・・・・・。


「あの、わたひ――」


 あれ、舌が回らない。

 それになんだか眠い・・・・・・。

 まさか、何か・・・・・・薬を・・・・・・。


「大丈夫、前に君に頼まれていたとおり、眠っているうちに終わらせちゃうから」


 頼まれて・・・・・・? 私、じゃなくて妹が?

わざわざ薬を入れるように頼んだ? 怖くて?


 ・・・・・・いや、違う。

やっぱり自殺なんてする妹じゃない。

そんなの考えるのはむしろ私の方。

妹は明るくて元気で・・・・・・。

 

 ・・・・・・ああ、そうか。妹は気づいていたんだ。

私が自分のフリをしていることを。

あの子の男友達と寝たことも。

それにもしかしたら、入れ替わりを思いつく前に私が妹にしてた嫌がらせの数々も。


 私は知らなかった妹の深層、私へのその憎悪を。

 

 入れ替わったのは外側だけじゃなく、あのどす黒い感情も・・・・・・。

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