ネズミとライオン
「あ、ネズミだ」
「え・・・・・・うっ!」
「こいつは幸運だ。まさかネズミが目の前をぼんやり歩いているとは。
そしてちょっと手を伸ばしたらこの様だ。やはり私は狩りの天才らしい」
「・・・・・・ひ、ひいいいいい! ライオン様! どうかお助けを!
なんでもします! それに私ごときを食べたところで
大しておなかは満たされないでしょう!?
でも私は必ず、いつの日かあなた様がお困りになった時に
お役に立つとお約束しますので! だからどうかどうか・・・・・・」
「はっはっは! お前のように口が良く回るネズミは初めてだ。
まあ、よかろう。見逃してやる」
ライオンが手を放すとネズミは何度も頭を下げ、茂みの中に駆けていった。
それからしばらく経ったある日。
ライオンは人間が仕掛けた罠にひっかかってしまった。
網の中、もがき苦しんでいると、どこからかネズミが颯爽と現れ
ライオンを罠から見事に開放した。
「これで、あのときの恩は返せましたね」
「ふっー、そうだな、器用な奴だ。確かにお前のお陰で助かったぞ。
そう、これで貸し借りなしだ。と、いうことで!」
「な、何をするんですか! やめてください! 私の尻尾から手を放してください!」
「貸し借りなし。つまり振り出しに戻ったわけだ。
まあ今度は見逃してやるつもりはないがな。
罠から逃げようと沢山動いたから、腹が減っているのだ」
「・・・・・・そうか。やれ」
ネズミのその言葉を合図に再び丈夫な網がライオンの体を捕らえた。
そして茂みから現れた人間たちがライオンに麻酔銃を撃った。
「な、何が・・・・・・」
「ふぅー・・・・・・ライオンよ。お前は疑問に思わなかったのか?
なぜ、異種族であるライオンとネズミが平然と会話できるのかを。
私は考えた。そして気づいた。自分の才能にな」
「ネズミ様。お怪我は」
「口を挟むな。コイツが眠るまで時間がないんだ」
「はっ! 失礼しました!」
「で、だ。このように私は異種族と会話できる。
それを気づかせてくれたのはライオン、君だよ。
今までネズミ同士でしか会話してこなかった私はあの日
君の言葉がわかったことに驚き、体が強張ったのさ。
そうでもなきゃ、この私があんなにたやすく捕まりなどしないさ。
それで、何だっけ? 貸し借りなしがどうだとか。
そもそもお前が私を食い殺そうとして
それをやめて恩だ何だと・・・・・・ああ、もう眠ってしまったか。
君も才能に溺れ、傲慢になりさえしなければね・・・・・・。もういいぞ、さっさと運べ。
こいつは調教して、サーカス送りだ」




