海辺の二人
穏やかな波が打ち寄せ、太陽の光で煌めく海原。二人の男女が肩を寄せ合い、砂浜をゆっくり歩いている。
「私たち、幸せね」
「ああ、まったくだね」
この相手さえいれば、他に何もいらない。見つめ合う二人の目には、そういう想いがあふれていた。二人はもうすぐ、結婚することになっている。
「でも……」
「おや? あれは……」
二人の前方、波間から一人の男が現れた。金髪で彫りの深い顔立ち、がっしりとした体つきだ。女の視線はその男に釘付けになり、思わず声を上げた。
「なんて素敵なの!」
「……ああ、確かにね。でも、不用意に近づかないほうがいい。危険かもしれない」
「大丈夫よ。ほら、あの顔を見て。いいわあ。ああ、もうたまらない! 近くに行ってみるわね!」
「まったく、君ってやつは……」
『たす、たすけてくれ……』
「近くで見るとますますいいわ。なんて運がいいのかしら!」
「ああ、神が祝福してくれているんだ」
『来るな、やめろ……』
「ねえ、欲しいわ。いいでしょ?」
「ああ、二人でやろう」
『頼む、ああ!』
「えい! あはは!」
「ふふふっ。うーん、なかなか気絶しないな。ここを、こう!」
『あああ! あ、あ……』
「ああ、いいわ! うふふ」
「よし、それじゃ運ぼう」
「ほんと、平和ね……」
「ああ、最高だ」
人食い族の島は最近、平和そのものだ。身内から出さなくても、儀式に必要な肉が島に流れ着く。今手に入れたばかりの肉を引きずりながら、仲睦まじく歩く二人。その遥か上空では、戦闘機が激しくやり合っていた。




