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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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エンリケ、エンリケ

【先生、突然のお手紙ごめんなさい。でも、もう頼れるのは先生しかいないんです。

家族は怪しい……。エンリケです、エンリケの仕業に違いありません。

やつらはコンセントからパラリウム光線を照射して僕の脳を萎縮させ、自分が入り込むスペースを作ろうとしているのです。

嘘じゃありません、証拠はあります。近所の子供が毎朝、家の壁にボールをぶつけてくるんです。エンリケが頭の中に入り込み、仲間に信号を送っているんです。ボールの音にパターンを見つけました。間違いありません。

やつらはどんどん増えています。ああ、先生。先生は無事ですよね? すぐに電化製品のコンセントを抜いて、ガムテープで塞いでください。エンリケはあの匂いが嫌いなんです。それから、コンセントを抜いた電化製品にはしばらく近づかないでください。エンリケが潜んでいるかもしれません。先生、どうかお気をつけて】



 ……水泳スクールの教え子から奇妙な手紙が届いた。素直なヤツだったからよく覚えている。小学校の間ずっと通っていたから、今はもう二十歳くらいか。昔のことを思い出してしみじみと……いや、内容がな……。しかも、手紙の縁をぐるりと奇妙なマークで囲んでいる。どうやらイカれたらしい。家族を疑っているようだし、頼れる相手がおらず、藁にもすがる思いでおれに手紙を送ってきたのだろうが……どうしたものか。

 電話番号でも書いてあれば連絡できたが、ああ、電化製品を恐れているんだったな。手紙でやり取りをするしかないらしい。なんて返信するか……。


【馬鹿な妄想は捨てろ。余計なことは考えず、ただやるべきことをやれ】

 

 ……これじゃ駄目だな。下手なことを言えば、逆効果になるかもしれない。そうなれば、最悪責任問題だ。向こうの親に手紙が来たことを知らせて、息子をどうにかするように言うか。でも、どうやって? 直接会うか? 名簿かどこかに自宅の電話番号が載ってないかな。ああ、なんでおれがこんなことを。今はそれどころではないのに。無視していいか……。


「う゛ぅん」


 おっと、言っているそばから咳払い。どうも妻はここのところ虫の居所が悪い。理由はたぶん、おれが定年後、ずっと家にいるからだろう。時々、散歩でもするかな……。そうだな、手紙もその時に郵便ポストに出そう。

 とりあえず無難な文章で、念のため携帯番号も書いて送ろう。電話で話せれば、親に代わってもらうこともできるだろう。



【先生、お返事ありがとうございます! やっぱり先生しか頼れません!  腰痛で困っているとのことですが、ガムテープにこの絵を描いて痛いところに貼れば治りますよ! それでピームカークルによる監視の話なんですが――】



 数日後、また手紙が来た。延々と続く陰謀論は目が滑るが、簡素なマークには止まった。手紙の縁を囲んでいるものと似ているが……。それはそうと、腰痛のことをなんで知って、ああ、そうか、和ませるつもりでちょっと書いたんだっけ。ガムテープか……馬鹿馬鹿しいが、試してみるか。歩み寄るつもりで、ははは、昔なら考えられないな。おれも丸くなったものだ。



【お役に立ててよかったです! それで、奥様の件ですが……やはり、それはポポンティウムの影響かもしれません。やつらは時計の針を異常に気にするんです。奥様がパイルレフトしていれば大丈夫なんですが、もしかするとすでにビーツ波の影響で、脳がテンテンセティウムしているかもしれません。確かめるにはチチチキココムをスタンカートし、オプトソーシングしたうえでパジェンダ。間髪入れずに漏れ出たアビデンスを集め、ポミットすればウォンウォンの関係になるのでフルエンサーを起動し――】



 ……まさかとは思ったが、腰の痛みが本当に治った。プラセボ効果というやつだろうか。それほど信じたつもりはなかったのだが。

 それにしても、また送られてきたこの手紙の内容に理解が追いつかない。いや、脳が拒絶している。訳のわからない単語を当たり前のように延々と並べやがって、こいつ、宇宙人か?

 唯一わかったのは、またもや描かれたマークだけ。こいつをドンクテンクすればいいらしい。



【先生、お返事ありがとうございます! 奥様の件、やはりモッテントでしたか……。気づけてよかったです。まだ間に合いますから。でも、これで奴らの注意を引いてしまったかもしれません。監視が始まっていませんか? 本当はデッカスデンフィールドを起動するといいのですが……。

このマークを紙に書いて、糊で家中に貼り付けてください。釘や画鋲を使うとやつらに感知され、モールドされる恐れがあります。それから、バロロアポクトを――】



【先生、早速のお返事ありがとうございます。奥様ですが……その様子だと、すでにやつらにパンクルされているようです。でも大丈夫。奥様の顔中にガムテープをプロメテートして、その上から呪いの文字をすべてインモルタルしてください。手紙の縁にいつも書いてあるやつです。お礼の返事は不要です、コレナード。

スイミングスクールの先生の厳しいご指導、今でもとてもよく覚えています。どうやったって忘れられないほどに。まあもう、この文章を見ても何も思わないでしょうけどね。それから今までの手紙はすべて処分してください。あ、サヌティムしてください。こう言わないともう伝わりせんもんね。うまくいってよかった。それでは、さよなら】

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