靴屋と小人
あるところに、小さな靴屋を営む老夫婦がおりました。おじいさんは腕は良いのですが職人気質で、これだという靴ができるまで
店に出さなかったため、いつも貧乏でした。
「……よし、できたぞ。ふははは!」
この日、ようやく完成した靴を机に置き、おじいさんは満足そうに笑いました。
「さて、この勢いでもう一足……おや、もうこんな時間か……やれやれ、ふふふ」
時計を見て、夜もすっかり更けていることに気づいたおじいさんは、材料をそのままにしてベッドに入りました。
翌朝、目を覚ましたおじいさんは驚きました。
なんと靴が出来上がっていたのです。それも、横に並んでいる昨夜完成させた自分の靴よりも明らかに出来が良かったのです。そして、その靴は予想通り、高い値段であっという間に売れました。
おじいさんは酒をあおって、憤慨しました。自分のこれまでの人生はなんだったのか。腕を磨き、靴を作ることだけに時間と心を費やしてきたのに……。
「あの靴はなんだ……」
「うふふ、小人さんが作ってくれたんですよ。私、夜中に見ましたもの」
おじいさんの呟きにおばあさんはそう言いました。
「……お前だろ?」
「え?」
「お前、お、お前がわしの作業を見ていたことは知っている。ず、ずっと、じ、自分のほうが、うう、うまく作れると思っていたのか……? わしを嘲笑っていたのか? 見せつけるように完成した靴を置いたのか? そそそそうだろ、そうだ、そうだ! 素直に言えばいいものを、小人の仕業だと? 人を馬鹿にするのも大概にしろ!」
おばあさんは何も答えられませんでした。激昂したおじいさんに喉を締め上げられていたからです。
おじいさんが手を放すと、おばあさんはゴトリと石像のように床に倒れました。
まだ興奮冷めやらず、肩で息をするおじいさん。
その視界の隅を何かが走りました。
見えたのは一瞬でしたが、それは角を生やした黒い体の小さな小さな……。




