北風と太陽の戦い
ある日のことです。北風と太陽が、どちらが強いか言い争いを始めました。
しかし、議論は堂々巡りに。どうやって決着をつけるか考えていると、てくてくと野原を歩いている一人の旅人が目に入りました。
よし、ちょうどいい。あの旅人の上着を多く脱がせたほうの勝ちとしよう!
話はそうしてまとまり、北風が張り切って準備を始めました。太陽はそれを見て、にやりと笑いました。
馬鹿め、人間は寒いと服をたくさん着るんだ。まったく、北風の奴は人間を知らなさすぎる。
さあ、開始です。北風がぴゅうううっと旅人に息を吹きかけました。すると旅人は、うっと身を固くして上着を手で押さえました。
その様子を見て、北風はしまったと焦ります。しかし、もう遅いです。太陽は北風の狼狽ぶりをニヤニヤと眺めます。
北風はさらに息を吹きかけます。すると太陽は我慢できずに大笑いしました。
北風は無視して、がんばって息を吹き続けました。
ひとしきり笑ったところで太陽は、そろそろ代わるようにと北風に言いました。北風は黙って応じました。
さあ、太陽の番です。
太陽はギラギラと輝き、うーんと暑くしてやりました。
しかし、おや? 旅人はまだ上着を脱ぎません。
それならばと、太陽はもっと力を入れました。しかし、旅人はうずくまったまま上着を脱ごうとしませんでした。
これはおかしいぞ……。
そう思った太陽は旅人をよーく見つめました。すると、あることに気づきました。
「おい北風! あの男をわざと凍死させたな!」
「さあ、どうだろうね。でも、こうなったら仕方ない。勝負は引き分けということで」
「いいや、納得がいかない! お前の反則負けだ!」
「ふー、はいはい。それでいいよ。まあ、君には無理な芸当だものね」
「……それはどういう意味だ?」
「君には人一人殺せないってことさ。まあ、どうでもいいけど。君の勝ち、君の勝ち」
「……もう一度勝負だ」
「まあいいけど、人影が見えないから、しばらく待つことになりそうだ」
「いや、こんな峠じゃなくて、たくさんの人がいる場所で! 今度はもっと期間を長くしてやろう!」
太陽は憤慨しながらそう言いました。北風はやれやれ、と了承しました。
今度は太陽の番から始まります。
今年の夏はやけに暑く、鰻登りに気温が上がっていきました。
人がばたばた倒れても、まだまだまだまだ収まらず……。




