裸の王様だ
ある日のこと、その国の王様は鏡の前で頷くと、意気揚々と城の外に出ました。
今日は配下に作らせた新しい衣装のお披露目のパレードです。王様は道の左右に分かれて跪く民衆の中を馬に乗って、ゆっくりと進みます。
いつもの光景のはずが、王様の姿を見上げた民衆は驚きのあまり目を見開きました。
なんと王様は裸だったのです。
痩せた子供が思わずプッと吹き出し、母親が慌ててその子の口を塞ぎます。しかし、それを見逃さなかった目敏い王様は子供に訊ねました。
「どうした? そこの子供よ。今、余を見て笑っただろう」
母親が「なんでもないわよね? ね?」と子供に囁きました。しかし、子供はこう言いました。
「えー、だって、おかしいもん。王様、裸だもん!」
その瞬間、辺りが静まり返りました。民衆はこれから起きる恐ろしいことを想像して、震え上がったのです。
しかし、王様はにっこりと笑いました。どうやら、怒ってはいない様子。むしろ嬉しそうです。それを見て、「確かにそうだ」「裸だ」「うんうん」と民衆は恐れつつも口々に言い始めました。
しかし、一人の若者がこう言いました。
「いいや、よく見ろ。透けているだけでちゃんと着ているじゃないか。ほら、ビニール製の――」
――ズドン。
銃声が辺りに響き渡りました。
「余は裸だぞ? そうだろう、我が民よ」
王様の言葉に民衆は頷き、すばらしい肉体美だと褒め讃えました。それを聞き、王様は満足そうに頷きました。
うむ、これでいい。独裁体制を維持するためには民衆が馬鹿でないといかん。これがビニールという知識すら持たない者たちでなければな。
さっき、あのメガネの男に同調していた者は全員処刑だ。そして、いずれは皆、裸同然の原始的な暮らしをさせる。皆同じような暮らしで、外の世界の余計な情報がなければ他人を羨むこともない。それこそが幸福なのだ。
自分の考えに満足し、満面の笑みを浮かべて道を進む王様。その下で、民衆はパレードが終わるまで腹の底から叫び続けました。
王様は裸。裸の王様。素敵なお体。素敵な王様と……。




