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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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天使の基準

 人は誰しも頭の中に天使と悪魔を宿しているという。それは善い心と悪い心のことだ。落とした財布を交番に届けるか、自分のものにするか葛藤する。その際は、世のため人のためになることのほうを選んでほしいものだ。

 ……と考えたある科学者が「それじゃあ、天使だけにしちゃおう」と作ったのが小さなチップ。

 それは生後間もない赤子の頭の中に埋め込まれ、前述のような心のせめぎあいが始まると、天使の囁き声が頭の中でするという仕組みだ。

 その声を無視して財布を自分のものにしようとすると、天使の声はどんどん大きく、やがて頭を抱えるほどのものになる。

 この発明のおかげで世の中に善人が増えた。選択の瞬間が訪れると、自前の悪魔の誘惑など掻き消され、みんなが善い行いをする。また、危機的状況でも天使は問題なく機能した。

 たとえば、強盗に襲われ反撃し、殴り倒し、勢いそのままに追撃を……というところで天使は『これ以上は過剰防衛になります。あなたが罰せられることになります。お止めなさい』と法律に則って最善の選択を提示してくれるのだ。

 このチップに穴はない。あるとすれば……。


 夜、人けのない路上で、男は伸び上がった“強盗”を見下ろした。そう、この強盗にはチップが埋め込まれていない。旧世代。それもチップの埋め込みを拒否した者だ。でなければこの世の中で強盗などできるはずもない。陰謀論だのなんだの御託を並べて拒否するこのような輩は少なくなかった。

 だが、ついに全世代へのチップの義務化が開始された。拒否する者には強制的に埋め込む決まりだ。

 今では見つけ次第、チップを埋め込めるように各人、注射器を持たされている。これも天使の進言であり、チップを有していた誰もが従った。天使の言うとおりにすると、ヨシヨシと頭を撫でられるような感覚がして、自己肯定感が満たされるのだ。

 とろんとした目つきの男は、天使の指示通りに注射器を強盗に刺した。

 天使は当初と変わらず問題なく機能している。これからもそうだろう。天使は微笑み続ける。


 ただ、この現実世界には実際に天使は存在しない。では、何をモデルにしてこのチップを作ったのか。それは開発者である博士の善良な心。つまり脳にいる自前の天使だ。


 しかし、その天使は考えにかなり偏りがあることに誰も、その博士自身も気づいていなかったのである。

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