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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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355/705

死亡フラグフラグ!

 大海原を行くとあるクルーズ船。甲板にて、沈んだ顔をしている女に、彼氏が話しかける。


「なぁ、どうしたんだい? さっきから浮かない顔をしてさ。せっかくの船旅なんだし、もっと楽しもうよ! お、あれは鯨かな? なんてね、この辺りにはいないか! ははははは!」


「ごめんなさい、今はそんな気分になれないの……」


「船酔いかい? ほら、風に当たってあの美しい夕日を見ていればきっと――」


「そうじゃないの。ねぇ、気づかない? この船に乗っている人たちって、なんか……」


「んー? 別に変なところはないように見えるけど……」


「……あそこで電話している人。ほら、会話を聞いてみて」


「おいおい、盗み聞きかい? っと、わかったわかった。腕を引っ張らないでくれよ」


『そうだ、今回の仕事がうまく行けば、まとまった金が手に入る。それで、家に帰って人生をやり直したいんだ。お前と、あの子と一緒にな……』


「ほう、いい話じゃないか。あれがどうしたの? まさか、彼が殺し屋だとでも言う気かい? はははは!」


「次はあの親子!」


『僕、この病気が治ったら、遊園地に行きたいな……』

『大丈夫。向こうの病院にはすごいお医者さんがたくさんいるからね! 手術は必ずうまく行くわ』


「手術を控えた少年とその母親か。うーん、いいドラマだなぁ」


「次! あの二人組の男!」


『お前、こっちでの仕事が終わったら何する?』

『へへ、実はなもうすぐ子供が生まれるんだ』


『マジか! めでたいな! 実は俺は帰ったら彼女にプロポーズしようと思っているんだ。家族ぐるみの付き合いができるな!』


「これもまたいい話だなぁ」


「次はあの人! 今度は話しかけるわよ!」


「君、なんだか怖いな……」


「いいから! あの! ちょっとすみません!」


「ん? なんです?」


「手に持っているそれって……」


「ああ、このぬいぐるみ? 実は今日、子供の誕生日なんだ。でも、恥ずかしい話、今までいい父親をやれていなくてね……。ははは、家に着いても、ひょっとしたら門前払いかもなぁ。でも、もし受け入れてもらえたら――」


「次!」


「ちょっと、まだあの人、話している途中だったよ」


「いいから! 連続で行くわよ!」


『なんだよ、お前らもう着いたのかよ。え? しょうがないだろう? 飛行機に乗り遅れたんだから。お前たちは先に行っててくれよ。後で絶対追いつくから』

『ふぅ、さすがの奴も海の上までは追って来られないだろう。まったく、俺は悪くねえのによ。アイツがやれっていったからやっただけなのに』

『私、実は見ちゃったのよ、え? 今は内緒。ふふふ』

『風に当たっても無理か。船酔いは厄介だよな。ん? 先に中に戻る? オーケー、わかった。俺はもう少しここにいるよ。まあ、一杯やるのは陸に戻ってからだな。ははは!』

『ん? なんだ今の物音は。なんだ、ただの鳥か。脅かしやがって……』

『あの組織からは足を洗う。これからは真っ当に生きるんだ……』

『ああ、この傷? さっき妙なネズミに噛まれてさ……。ま、大したことないさ』


「うーん、特に変わった会話はないようだけど……」


「いや、大ありよ! 全部、これから死にそうな人が言いそうなことばっかりじゃない!」


「え、いったいどういうこと? わけがわからないよ。それに、死にそうなんて縁起でもない。でも、ふふふ、君は時々変なことを言うなぁ。そうだ、僕らが出会ったときのことを覚え――」


「やめて! 回想に入らないで! あなた、死ぬわよ!」


「おいおい、僕が死ぬわけないだろ。僕には夢があるん――」


「突然夢を語らないで! 危険よ!」


「冗談はよしてくれよ。海から化け物でも出てくるっていうのかい? そんなことあるわけが……」


「だからやめてっての!」


「ふふ、大丈夫。さすがに化け物には敵わないけど、これでも昔、格闘技の地区大会で優勝をしたことがあって、あ、そうだ! 君にはこれまでいろいろと迷惑をかけてきたけどさ。実はこれ、君にあげようと思って……。僕の大事なもの。君に持っていてほしいんだ。母の形見のネックレス。指輪はお金を貯めて、いずれ必ず……だから僕とけっ――」


「イヤアアアァァァ! みんな死ぬんだわあああ! イヤアアアアァァァァ!」


『おいおい、何の騒ぎだ』

『なんだあれ? 映画の撮影か何かか?』

『ヒャッハー! トラブルか!?』

『みんな死ぬって? 変なの。あんな人の言うことは無視して、向こうに行こう』

『おっと、忘れ物したから先に戻っててくれ』

『あの女、変よ……。早く船員に知らせないと』

『おーい、姉ちゃんよぉー、どうしたんだー? へへへ。こっちきておじさんと飲まねぇかー?』


「ほら! みんな見ているよ! 落ち着いて!」


「イヤアアアアァァァ! モブよ! 殺されるだけのモブ! モブモブモブモブモブブブブブ!」


「大丈夫だからほら、話せばわか――」


『は、話せば分かる! 何でもする! 命だけは助けてくれ! 金か!? 金ならいくらでもある! だから起爆は――』


「イヤアアアアアアア! 王道ううううう! こんな危険なところにはいられないわあああ!」


「あ、ちょっと! そっちは危な――」


「あああああああ!」


『おい、人が海に落ちたぞ!』

『誰か助けてあげて!』

『おい! それより、そこのアンタ。今の電話は何だ? 起爆?』

『え? これは役者の先輩にドラマのオーディションのセリフを聞いてもらってて……』

『誰か救助を早く呼んでよ!』

『ん?』


『『『『「なんだ今の妙な揺れは」』』』』

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