死亡フラグフラグ!
大海原を行くとあるクルーズ船。甲板にて、沈んだ顔をしている女に、彼氏が話しかける。
「なぁ、どうしたんだい? さっきから浮かない顔をしてさ。せっかくの船旅なんだし、もっと楽しもうよ! お、あれは鯨かな? なんてね、この辺りにはいないか! ははははは!」
「ごめんなさい、今はそんな気分になれないの……」
「船酔いかい? ほら、風に当たってあの美しい夕日を見ていればきっと――」
「そうじゃないの。ねぇ、気づかない? この船に乗っている人たちって、なんか……」
「んー? 別に変なところはないように見えるけど……」
「……あそこで電話している人。ほら、会話を聞いてみて」
「おいおい、盗み聞きかい? っと、わかったわかった。腕を引っ張らないでくれよ」
『そうだ、今回の仕事がうまく行けば、まとまった金が手に入る。それで、家に帰って人生をやり直したいんだ。お前と、あの子と一緒にな……』
「ほう、いい話じゃないか。あれがどうしたの? まさか、彼が殺し屋だとでも言う気かい? はははは!」
「次はあの親子!」
『僕、この病気が治ったら、遊園地に行きたいな……』
『大丈夫。向こうの病院にはすごいお医者さんがたくさんいるからね! 手術は必ずうまく行くわ』
「手術を控えた少年とその母親か。うーん、いいドラマだなぁ」
「次! あの二人組の男!」
『お前、こっちでの仕事が終わったら何する?』
『へへ、実はなもうすぐ子供が生まれるんだ』
『マジか! めでたいな! 実は俺は帰ったら彼女にプロポーズしようと思っているんだ。家族ぐるみの付き合いができるな!』
「これもまたいい話だなぁ」
「次はあの人! 今度は話しかけるわよ!」
「君、なんだか怖いな……」
「いいから! あの! ちょっとすみません!」
「ん? なんです?」
「手に持っているそれって……」
「ああ、このぬいぐるみ? 実は今日、子供の誕生日なんだ。でも、恥ずかしい話、今までいい父親をやれていなくてね……。ははは、家に着いても、ひょっとしたら門前払いかもなぁ。でも、もし受け入れてもらえたら――」
「次!」
「ちょっと、まだあの人、話している途中だったよ」
「いいから! 連続で行くわよ!」
『なんだよ、お前らもう着いたのかよ。え? しょうがないだろう? 飛行機に乗り遅れたんだから。お前たちは先に行っててくれよ。後で絶対追いつくから』
『ふぅ、さすがの奴も海の上までは追って来られないだろう。まったく、俺は悪くねえのによ。アイツがやれっていったからやっただけなのに』
『私、実は見ちゃったのよ、え? 今は内緒。ふふふ』
『風に当たっても無理か。船酔いは厄介だよな。ん? 先に中に戻る? オーケー、わかった。俺はもう少しここにいるよ。まあ、一杯やるのは陸に戻ってからだな。ははは!』
『ん? なんだ今の物音は。なんだ、ただの鳥か。脅かしやがって……』
『あの組織からは足を洗う。これからは真っ当に生きるんだ……』
『ああ、この傷? さっき妙なネズミに噛まれてさ……。ま、大したことないさ』
「うーん、特に変わった会話はないようだけど……」
「いや、大ありよ! 全部、これから死にそうな人が言いそうなことばっかりじゃない!」
「え、いったいどういうこと? わけがわからないよ。それに、死にそうなんて縁起でもない。でも、ふふふ、君は時々変なことを言うなぁ。そうだ、僕らが出会ったときのことを覚え――」
「やめて! 回想に入らないで! あなた、死ぬわよ!」
「おいおい、僕が死ぬわけないだろ。僕には夢があるん――」
「突然夢を語らないで! 危険よ!」
「冗談はよしてくれよ。海から化け物でも出てくるっていうのかい? そんなことあるわけが……」
「だからやめてっての!」
「ふふ、大丈夫。さすがに化け物には敵わないけど、これでも昔、格闘技の地区大会で優勝をしたことがあって、あ、そうだ! 君にはこれまでいろいろと迷惑をかけてきたけどさ。実はこれ、君にあげようと思って……。僕の大事なもの。君に持っていてほしいんだ。母の形見のネックレス。指輪はお金を貯めて、いずれ必ず……だから僕とけっ――」
「イヤアアアァァァ! みんな死ぬんだわあああ! イヤアアアアァァァァ!」
『おいおい、何の騒ぎだ』
『なんだあれ? 映画の撮影か何かか?』
『ヒャッハー! トラブルか!?』
『みんな死ぬって? 変なの。あんな人の言うことは無視して、向こうに行こう』
『おっと、忘れ物したから先に戻っててくれ』
『あの女、変よ……。早く船員に知らせないと』
『おーい、姉ちゃんよぉー、どうしたんだー? へへへ。こっちきておじさんと飲まねぇかー?』
「ほら! みんな見ているよ! 落ち着いて!」
「イヤアアアアァァァ! モブよ! 殺されるだけのモブ! モブモブモブモブモブブブブブ!」
「大丈夫だからほら、話せばわか――」
『は、話せば分かる! 何でもする! 命だけは助けてくれ! 金か!? 金ならいくらでもある! だから起爆は――』
「イヤアアアアアアア! 王道ううううう! こんな危険なところにはいられないわあああ!」
「あ、ちょっと! そっちは危な――」
「あああああああ!」
『おい、人が海に落ちたぞ!』
『誰か助けてあげて!』
『おい! それより、そこのアンタ。今の電話は何だ? 起爆?』
『え? これは役者の先輩にドラマのオーディションのセリフを聞いてもらってて……』
『誰か救助を早く呼んでよ!』
『ん?』
『『『『「なんだ今の妙な揺れは」』』』』




