ループ
「あ! やっぱりここにいた! あはは!」
放課後、夕日が差し込む教室で一人、帰り支度をしていたところに、マイが慌ただしく教室に入ってきた。
「いたって、大体いつもこの時間に――」
「ねえねえ聞いて聞いて!」
「はぁ、どうしたの?」
「私、私ね……」
「うん」
「……ループしているの!」
「……え、ループって、アレ? 同じ一日を繰り返すって、でもそれってデジャ――」
「そう! そうなの! ふふふ、あははははははっ! ああ、ごめんね。でも、その受け答えも前と同じだったからさ。あ! でも信じないよね? うん、わかる! だから試していいよ! さあ、背中で指を何本か立ててみて! 当ててみせるからね」
「んー、じゃあ、はい」
「ふふん、二本でしょー?」
「あー、うん。正解」
「でしょ! でしょ! やっぱりね! じゃあ、ちょっともう行くね! やることあるからさ! また明日……って明日も今日か、あはははは!」
マイはそう言うと嵐のように走り去って行った。
翌日、マイは遺体で見つかった。
自殺したらしい。前から折り合いが悪かった母親と祖母を殺した後、手当たり次第に物を盗んだり、壊したりしながら逃亡を続けた挙句、人知れず、飛び降り自殺したって話だ。
飛び降りた時刻は夜中の十二時近くだったらしい。
私には明日が来た。マイはどうなのだろう。本人の言ったとおり、ループ。昨日に戻ったのだろうか。
私はあの時立てた指を顔の前に持ってきて、マイのことを考えた。
……うんざりしていた。思い込みが激しく、話を合わせないとすぐに不機嫌になるあの性格が。
私は目の前の一本の中指が、自分を非難しているように感じた。




