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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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大!演!説!

「であるからして皆様のご理解を得るべく、私は誠意をもってこの場に立ち――」


 クソッ。どれだけ喋ろうが、声を大きくしようが、こいつら全然聞く耳を持ちやしない。ようやく視線を向けたかと思えば冷笑して立ち去りやがる。俺はこんな奴らに尽くすために立候補したのか? こんなしょぼい台の上に立ち、必死になって呼びかけているのは何のためかわからなくなってきた。

 あ、今目をそらしやがった! あ、あくびまで! ふざけるなよ、こいつら本当に、ああああ……


「俺を見ろよ! 馬鹿ども!」


 ……え? 今、俺はなんて言ったんだ? 馬鹿どもって……口が勝手に……。なんで? ストレスか?

 ああ、そりゃざわざわするよな。終わった。はい、炎上。石打ちの刑。こいつらのリーダーになりたくて奮起したってのに、クソ……まあ、どうせ終わりなら、言いたいことを言ってから終わるか……。


「今のトップは爺ばかり! 奴らに俺たちの将来なんて考えられるか!? いいか、お前ら! よく聞けよ! まず――」


 あー、なんかすっきりしてきた。そりゃそうか。デカイ声を出して、それをちゃんと聞いてもらえるんだから。うん? そうだ。ちゃんと聞いているな、こいつら……。よーし、じゃあ、ここでしっかりとアピールを……。


「――で、皆様の生活を守るべく……あの……」


 うーん、なんだ。また聴衆の関心がなくなってきたな。俺を見ながらヒソヒソと嘲笑するように話してやがる。あ、おい、今耳を塞ぎやがったな。うるさいって? 邪魔? こいつら……俺が誰のためにやっていると思って……。


「いいから聞けよ! この馬鹿ども!」


 また出た!? 俺の意思に反して汚い言葉が……。ああ、でも望み通り、みんなが俺の話を聞いている。これはもうやるしかないな。


「いいか! お前らは! 物言わぬ奴隷だ! それをこの俺が変えてやる!」


 なんか体が熱くなってきたな。いいぞ、この調子だ。でも、どういうわけだ? 本音が漏れているのか? でも、今のこうして考えていることが、口からそのまま出て行くわけでもない。まるで……そうだ、これはこの前もらった風船みたいだ。今、こうして考えていることはしっかりと紐を握って飛んでいかないようにしているから大丈夫だが、そうでない俺の本音、気持ちが勝手に――


「俺は女が好きだ!」


 ああ、やっぱりだ。今つい、浮かんだことを言ってしまった。おっと、みんなザワついている。なんとかごまかすしかない。


「あー、だから! 女性が活躍できる社会! 誰もが輝ける! そんな社会を!」


 まあ、ブスは嫌いだがな。


「ブスは嫌いだ!」


 馬鹿か俺は! しっかりと考えを腹のうちで留めておけ!


「あーっと、そう! 暗く、沈んだ顔なんて、ブスとしかいいようがない! 明るい顔をする誰もが美しい! 女性がそんな暗い顔をしないような社会を! 女性だけじゃない! 性別関係なく他の誰もが――」


 ゲイは排除したいがな。


「ゲイは排除! 見つけたら殴ってやれ! いや、あの、あーっ、そう! 今同意したお前ら! 最低だぞ! そんな考えは! わかるか!? 大事なのは思いやりだぞこの社会は! いいか――」


 ごまかせた……よな? よし、このまま突っ走ろう! 勢いそのままに主張するんだ! ただし、過激な発言は控えめにな!


「――というわけだ! エコなんて糞食らえだ! 俺たちにまで押しつけるな! たくさん食って、残ったら投げつけて遊ぶ! そうだろ! よし、そこ! そうだ、そこのお前! いや、お前らだ! 声を上げろ! 俺のことを言え! 伝えろ! 風に! 鳥に! 人々に!」


 やった! 拍手だ! いいぞ、いい、いい! よし! 最後のひと押しだ。この熱を利用し、こいつらを扇動して成し遂げてやるぞ! そして、この俺がボスになり、その後の生活は安泰だ!


「よーし! いいぞ、みんな! 確かに奴らは、我々に良くしてくれたこともある! だが、それは所詮、ご機嫌取りのばら撒きだ! そんなことでごまかされる我々ではない! 今こそ革命を起こし! 我々がこの社会の中心になるのだ! そうだ! 見ろよ! 聞けよ! 言えよ! さあやるぞ!」



 この日、猿園にて猿たちの大規模な暴動が起こった。そしてそれは芋を洗う猿の話のように、なぜか全国でほぼ同時期に起こったという。

 しかし、投下された大量のエサを前に、猿たちはあっけなく沈静化したのであった。

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