お祓い
曇りの日。一人の男がとある家を訪れた。
「本日はお越しくださり、ありがとうございます、先生……」
「いえいえ、それで息子さんは?」
「部屋にいます……こっちです……」
辛気臭い家。それらしい雰囲気だ。
「あの、入るわよ。先生、この子が息子です」
「うむ」
こいつが例の息子か。母親同様、暗い感じだな。怯えているようだが、まったく馬鹿共はこれだから助かるよ。
「先生、どうでしょうか……? 息子に取り憑いた悪霊を祓っていただけるでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。報酬を『払って』いただればね。ふふん、『祓って』と『払って』を掛けてみましたよ」
「息子は……息子は本来、明るい子なんです……」
無視か。お気に入りのギャグなのに。ブツブツのたまいやがって。あーあ。暗い上に馬鹿だと救いようがないな。こちとらインチキだってのに。そもそも霊なんかいねーんだから、とっとと医者にでも診せればいいのによ。息子も母親同様、霊なんざ信じて勝手に具合悪くなってやがるんだな。それともイカれてるのか? ま、どっちにしろ医者、それも精神科医がお勧めだな。
……しかし空気が悪い家だな。ちゃんと掃除をしているのか? 適当に済ませてとっとと帰ろう。変な病気にでもなったら困るからな。
ま、お祓いしたってんで気分が上向きにでもなれば御の字だろうよ。別に法外な値段とっているわけじゃないんだ。さほど、だがな。
「では、これより始めます。ん?」
何だ? ガキが何か呟いて……。
「ママ。もうやめて、ママ……」
あ? 何を言っているんだ? ……こいつの腕にある痣。手で強く握ったような形だ。それも女の……。まさか、取り憑かれて、いや、イカれているのは……。
「ママ!」
「わたしぃぃぃぃのぉぉぉむすこぉぉぉはあああああねぇええええああああああぁぁぁぁ!」




