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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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捕食者           :約1000文字

 夜、真島は公園のベンチに腰掛け、外灯を見上げていた。公園の中心に立つ一本の高い外灯。その電球は丸い檻のようなカバーに覆われている。

 単なるデザインだろうが、虫の侵入を防ぐ意図もありそうだ。一匹の蛾がひらひらと外灯に近づいてきたのを見て、真島はそう思った。

 大きな蛾だ。外灯の周りをくるくると回っている。時折、檻を破ろうとするかのように体当たりを繰り返していた。

 その様子をぼんやり眺めていると、今度は蝙蝠が一匹現れ、外灯の周りを旋回し始めた。


 ――あの蛾を狙っているのか。いいな、捕食の瞬間が見られるかもしれない。


 真島は足を組み直し、ベンチにもたれるように深く座った。そうやって見ていると、蝙蝠が蛾に接近する場面は何度かあったが、食らいつくまではいかない。


 ――何してるんだ。さっさとやれよ。ほら……おっと。


 口に出しそうになったが、離れたベンチに人影が見えたので思いとどまった。男だ。スマートフォンを手にしているのか、顔が淡い光に照らされている。

 真島は軽く咳払いして、視線を外灯に戻した。

 そのまましばらく経つと、真島は退屈そうにあくびをした。蝙蝠と蛾の追いかけっこは続いていたが、飽きてきた。


 ――もういい時間帯だ。そろそろ行くか。


 そう思い、真島はベンチから立ち上がろうとした。その瞬間だった。


「……おおっ」


 真島は思わず声を漏らした。もう一度外灯を見上げたとき、ついに蝙蝠が蛾を捕らえたのだ。


 ――間抜けな蛾め。交尾相手でも探していたのか知らないが、食われちまったな。


 心の中でせせら笑いながら、蝙蝠を目で追った。蝙蝠は外灯の周囲を二度旋回し、やがてどこかへ飛び去っていった。


 ――縁起がいいものを見た気がするな。拍手でも送りたいところだが、あの男がまだいるだろうからやめておくか。目立つ行動は避けよう。どんな些細なことであれ、足がつく可能性があるからな。特にこれからすることを考えれば、なおさらだ。


 そう考え、ふと男の座るベンチに目をやったそのときだった。真島の体がビクッと震えた。

 男がこちらに向かって歩いてきていたのだ。その手にあるものが光った。スマートフォンではない。それは外灯の明かりを受けて、冷たく鈍く輝いたのだ。


 ――ナイフだな。


 真島は瞬時に確信した。男の表情には明らかな怒りが宿っていたからだ。


 ――被害者の恋人か身内か。ああ、今月はやりすぎたかもしれないな。


 真島はゆっくりと立ち上がり、ポケットに手を入れてアイスピックの柄を握りしめた。

 やるしかない。だが、迫りくる男を前にした瞬間、真島の頭にふと先ほどの蛾が浮かんでしまった。

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