インタビュー・ウィズ・ゴースト
ある日、街中で突然悲鳴が上がった。
当然、その場にいた者は視線を向けたのだが何も変わった様子はない。
なんだ、ただふざけて出した声か・・・・・・と思いきやポツンと立っているあの男。
何かおかしいぞと皆、訝しがった。そして徐々に気づき始める。
あの男、幽霊だ。
足はあるが全身半透明、顔に覇気がない。
立体映像? そんな技術はまだない。
恐る恐る何人か近づき、幽霊だと確信を持つのにそう時間はかからなかった。
触れようとした手は突き抜け、どこか冷たい、ドライアイスの煙に触れたような
なんとも言えない感覚なのだ。
やがて、どこからかテレビ局のクルーが駆けつけ、カメラを向けた。
通行人たちは大人しく見守る。
ここはプロのレポーターに任せよう。そんな空気ができていた。
死んだらどうなるのか、感覚は?
天国、地獄の存在。気になることはいくつもある。
「あ、あなたは幽霊でいらっしゃるのですか?」
マイクを向けた女はそう尋ねた。
「そう・・・・・・だよ」
返答があったことにまずホッとし、レポーターの女の緊張が少し解ける。
何も答えない、あるいは脅かしてくるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだ。
「で、では質問です。その、天国は存在するのでしょうか!?
い、一体どんなところなんですか!?」
直球の質問。普段、スイーツ店の店員にするように
悠長な質問をしてはいられない。
いつ他のテレビ局が来るかわからないのだ。
「さあ・・・・・・どんなところだろう・・・・・・」
わからないといった様子。
しかし考えてみればそうだ。
成仏、つまりあの世に行っていないからこの場にいるのではないか。
「な、何か世に訴えたいことがあって出てきたのでしょうか!?
現政治について何か言いたいことは!?」
「うーん・・・・・・さぁ」
「では、地球の環境問題については!?」
「よくわからないなぁ」
「では社会格差に一言」
「さぁ・・・・・・」
「ジェンダー不平等は!」
「うーん?」
その後の質問に対しても目立った回答はなかった。
元々ぼんやりした性格なのか、それとも幽霊だからか
どうにもやる気のようなものが感じられない。
本人も死因がわからないようで
殺された恨みを晴らしに出てきたと言うわけでもなさそうだ。
それでも中継カメラの先、スタジオは幽霊その個人の事よりも
「幽霊が存在すると言うことは死後の世界も存在する!」という推論を強調し
大いに盛り上げようとしていた。
そうこうしているうちに駆けつけた他のテレビ局のクルーも中継を始め
史上初の本物の幽霊の姿は一気に広まった。
と、なると面白く思わない人間もいるもので
「何を目立ちやがって」「俺のほうがもっと喋れるぞ」
と幽霊にスター性がない平凡な姿だからこそ、嫉妬心も湧いてくる。
俺も幽霊になってチヤホヤされたい! と自殺に走る者がポツポツと現れた。
無論、元々人生に疲れ、その気があった者だろう。
幽霊の存在、そして死後の世界の確信を得て、地上と言う地獄から逃れようと考えたのだ。
背中を押されたというわけだ。
しかし、新たな幽霊は現れない。
何か特別な条件が? それとも偶然? 宝くじのように確率の問題?
議論は続いたが、当の幽霊は首を傾げるだけなので結論には達しない。
センセーショナルな話題も続報がなければ熱は冷めていくもので
自称霊能者や坊主、神父などによる成仏企画などを打ち出したが
幽霊の反応の薄さに結局、大衆は興味を失っていった。
ただ、どうあれ死後の世界が存在すると知り、命の価値観が変わった。
言うなれば大雑把になったのだ。
「死んでもいーじゃん!」が流行語になるほど
危険や健康を顧みない生き方をする者が増えた。
生きている間は楽しくをモットーに、辛ければクヨクヨ悩まずにサクッと死んじゃおう
と狂気をはらんだ笑顔で。
自殺ブームの到来に当の幽霊はそれを気にすることなく、当初と変わらず
寝入る前のような緩慢な脳で思考を続けていた。
どうして僕はここにいるんだっけ・・・・・・。
何か任されたような・・・・・・。
あ
「・・・・・・天国は今、人口密度が凄くて・・・・・・。
これから死んじゃった人は審査なしでとりあえず皆、地獄に行くから・・・・・・。
なるべく死なないように気をつけてって伝えるように・・・・・・。
大慌てしてた門番に言われて来たんだ・・・・・・。
君、聞いてたよね・・・・・・? じゃあ・・・・・・もう帰っていいよね・・・・・・。
あれ・・・・・・僕はどうなるんだろ?まあ・・・・・・いいか・・・・・・」
幽霊はスゥーと消えた。
その場に残されたネズミがチュウと鳴いた。




