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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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藁人形

 竹薮を掻き分けて山の中を進む。今したのはミミズクの声だろうか。風がなく、静かで穏やかな夜だ。

 ……僕以外は。手に持った金槌を胸の前にやり、お守りのようにギュッと握り締めても心臓の動悸が治まらない。


 僕はいじめられていた。すごく惨めで死ぬことを考えるほどつらい日々。そんな僕の支えになったのは『呪い』だ。ありがちな、藁人形に釘を打つというもので、藁の中に呪いたい相手の名前を書いた紙と髪の毛を入れる。

 そう、難しいのは髪の毛の採取だった。連中は揃いも揃って短髪、スポーツ刈りだった。抜け毛が服についていることは期待できない。そこで僕は裁縫糸を切る小さな鋏を使った。こっそり近づいてサッとすます。まあ、スパイごっこみたいでそれはそれで楽しかった。


 ……ようやく目当ての場所を見つけた。

 道から逸れ、茂みの奥深くを進んだ先。人が立ち入らないであろう場所。月の光が木々に遮られ、夜の中でも、より深い闇がそこにあった。


 僕はその木に駆け寄り、そして藁人形を掴んだ。

 しなる音。飛び跳ねた藁が手に刺さり、こそばゆい。さらに力を入れると藁人形はボロボロと崩れ落ちた。

 長年、雨風にさらされていたせいだろう。中から出てきた紙に書いた名前は掠れているようだった。

 引っ張ると、錆びた釘だけが木に残った。それを金槌の釘抜き部分で引き抜く。


 先月、かつて僕をいじめていた連中の一人が死んだことを元同級生のSNSで知った。

 そして先々週、先週と立て続けに他のいじめっ子も死んだ。すると、僕の脳裏にこの場所が、藁人形がよぎった。

 うちは代々呪術師の家系……なんかじゃない。そもそも、そんな連中がいるとも思えない。呪いなんてただの迷信。

 でも、あの時僕が込めた思いは本物だった。素人であるがゆえに効果を発揮するのに時間がかかったとしたら? そして全てが終わったとき、その代償を支払わなければならないとしたら?

 僕は連中のことなんかどうでもいい。中学生の時の話、それもクラス替えするまでの。あれから二十年近く経つ。仕事に打ち込み、彼女もできて、つらい日々を忘れることができていたのに……。


 人を呪わば穴二つ。木にあいた数十個の穴が僕の末路を暗示しているようだった。

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