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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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311/705

理想的な午前

 朝、家を出た男は、自転車の前で幼稚園に向かう準備をしていた隣の家の若い母親とその娘と出会った。


「あ、おはようございます。今日も……素敵ですねっ」

「ステキー!」


 彼はニコッと笑い、軽く手を振った。その母親のやや含みのある言い方に、あれこれ想像を膨らませつつ歩く。

 駅のホームに到着した彼。と、女子高生たちが彼のほうを見て何か話している。彼が何食わぬ顔でその近くを通り過ぎると、「今の人カッコいいよね」「うん、カッコいい!」なんて聞こえた。

 彼がちらと振り返ると彼女たちは彼を見てキャーキャーと色めき立っている。

 前を向き直して定位置まで歩いた彼は背筋を伸ばし、俳優気分でホームに立ち、電車を待つ。そして数分後、電車が到着。いつもの車両、いつもの席に座る。隣はスーツを着た若い女性。眠いということらしい。彼の肩に頭がストンと落ちた。髪からいい香りが漂い、陽だまりとの合わせ技に彼は思わずウトウトしてしまう。


 目的の駅に到着。すると女性はスッと頭をどけ、微笑み、「すみません」と会釈。照れた顔が素晴らしい。彼は「まあ、いいんですよ」とウィンクし、下車。

 会社に行く前に、近くのコーヒーショップへ。そこでは女性店員が愛らしい笑みをくれる。無論、客なのだから当たり前だが、それがカップを渡す際に手と手が触れて、照れた顔に早変わりした。退店時の「ありがとうございました」もどこか色づいている気がし

男は振り返らずグッと親指を立てた。

 少し歩いて会社に到着。同僚の女性社員たちが挨拶と同時に彼にボディタッチ。

 彼は「やれやれ」といった顔。自然と顎がしゃくれた。デスクで資料を纏めてプレゼンの場へ。そして発表。自分の番を終えると上司から盛大な拍手が。


「いやぁ、実に素晴らしかったよ」


「どうもどうも、ちなみに採用ですか?」


「いや、不採用だけど」


 退社後、同僚の女性社員と偶然肩がぶつかった。舌打ち。ゴミを見るような目であった。

 電車は混雑。疲れた体で家の近くまで来ると偶然、隣の家の親子と顔を合わせた。朝のように手を振ろうとする娘をその母親が制し、そそくさと立ち去った。犯罪者を見るような目つきであった。


 家の中に入ると男の体にどっと疲れが込み上げる。男はソファーに倒れ込み、思う。

 やっぱり帰りも何かしらのサービスが必要かな……。でも大分加入しちゃったからなぁ……サブスク……。



『子供と一緒朝の挨拶』500円

『女子高生の熱い視線』300円×2

『電車の指定席+頭乗せ(週一)』3200円

『コーヒーショップ駅前店の小さな安らぎ(コーヒー別料金)』250円

『同僚女性からスキンシップ(出社時のみ)』500円×3

『上司からの称賛』400円


【利用者様の勤務先、地域によって料金設定が異なる場合がございます。また、勤務先が当サービスに加入してない場合がありますので、ホームページ記載の詳細をご確認ください。またご自身がサービスを提供する場合、審査を受けていただきますので、そちらも詳細をよくお読みになってから申し込みください】


 彼はスマートフォンの画面を見つめ、ため息をついた。

 と、その時であった。鍵が開いた音。途端、彼は犬のように玄関に走った。


「あ、あははおかえりなさい。え、うん。今日はちょっと早めに、うん。ごめんね。いや、ううん、そんな、生意気だなんてえへへへ。うんうん、え? いや、帰ってきたばかりだからまだ何も準備は、え、いやいやいや不満なんてないよ! うん。共働きだし、うん。その、君の方が給料がね、大分高いから……うん、僕が色々とやるのは当然のこと、いや、本当だって! 本心だってば! 痛い! やめ、やめようよ暴力は……え? 無駄遣い? し、してないよぉ、ほら、だってさ、プラモだって捨てたじゃないか。君に言われてさ、え? は、反抗的な目? し、してないよ。あ、お風呂掃除してくるね!」




『良き夫』0円……。

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