情報源
休日。妻は友達と食事とかで出かけ、ひとり。リビングのソファーでくつろいでいたところ、電話が鳴ったので仕方なく起き上がり、手に取った。だが、どうせセールスか何かだろう。固定電話なんてもう解約してもいいかもしれない。
「はい」
『あ、どうも。えー、こちらのお宅は――』
……驚いた。なんとこの電話の男、こっちの名前どころか年齢、血液型、勤務先、さらには両親の名前までスラスラと述べたのだ。
「お、おい、あんた一体なんなんだ? どこでそんなに情報を」
『ああ、実はお宅の個人情報が売られてまして』
「売られ、それは余り気分がいいものではないな……」
『ええ、実はこれだけでなく、あなたの好きな女優、食べ物、他にも色々と』
「もういい、わかった。なあ、どうにかならないか? その流出元はどこなんだ?」
『その辺はねぇ、裏社会のことなのでね……ですがこの書類は私が買い取ったので他に漏れることはありませんよ。ええ、ちゃんとルールがあるのでね。まあ、私が他所に売らなければの話ですが。えーとまだ申し上げていないのは……お気に入りの風俗店の女の子は』
「いい! やめてくれ! なあ、それをこっちが買い取ることはできないか? 頼むよ」
『うーん……まあいいでしょう。では指定の振込先によろしくお願いします。確認ができたら書類は郵送しておきますので』
電話を切ったおれはふっーと息を吐いた。これで一安心だ。話の分かる奴で助かった。
……いや、しかしあの男、そもそも何の用件で電話してきたんだ?
一方その頃、電話をかけた男は机に置いた足を戻し、ぐぐぐっと体を伸ばした。
「ふー、客が来ないならこっちから見つけないとな」
男は窓を開け、タバコに火をつけた。その視線は自分の名を冠した探偵事務所の薄汚れた看板に向けられていた。




