欲を貪る
「あーあ、金が欲しい。金さえあれば……あー! ほしいー! 金が! ほしー!」
「その願い、叶えて差し上げましょうか?」
「ふぉう!?」
突然の声におれが飛び起きると、寝っ転がっていたおれの顔を覗き込むように、くの字に腰を曲げ立っていた男はサッとどいた。
何だこの男は。不審者、泥棒? 動悸、それに顔が熱くなるのを感じる。だがこれは欲望全開の独り言を聞かれたせいだろう。
「か、叶える? おれの願いを?」
おれはそう言い、平静を装いながら何か武器になるものはないか部屋を見渡した。
だが、ない。ああ、知っている。そんなものを買う余裕がないほど貧乏だ。この部屋だって見渡すほど広くないのだ。
「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私は悪魔です。貴方の曇りなき欲望一点の叫びを聞いて、出てきたのです」
言われてみれば確かに、どことなく人間とは違う感じが……。考えてみればこんなみすぼらしい部屋に入る泥棒もいないだろう。それに、わざわざ声かける必要もないはずだ。
「部屋で一人とはいえ大人があんなに駄々をこねるなんて。珍しいですよ。貴方のような欲望に塗れた人は」
そう言われるとまた恥ずかしくなったが、もう構うことはない。突き抜ければ何であろうとこうして評価してくれる者がいるものだ。
「そ、それで願いを叶えてくれるのは本当なんでしょうか?」
えへへへ、とおれは媚びへつらうように言った。すると悪魔は機嫌良さそうに笑った。思ったとおり、悪魔が好きそうな下卑た顔をして正解だった。
悪魔はその上機嫌のまま、おれに正式な願いを言うように促した。代償はあるのだろうか? 寿命を何年分か頂く? 死後、魂を貰う?
いや、何であれ今よりマシだ。明日どころかこうしている今も腹が減って死にそうだというのに、借金はおろか未払いの年金のように何年、何十年先のこととか考えていられるか。
欲しいものはもう決まっている。悪魔の気が変わらないうちにさっさと貰うもの貰おう。
「よし、お願いだ! 金だ! もう一生食うに困らないだけの金をおれにくれ!」
悪魔はニヤリと笑った。すると皺が寄ったその頬にピシッと切れ込みが入り、ぺラッとめくれた。
床に落ちた皮膚が変化していく……おおおお、紙幣! 金だ! おれのものだ!
そして顔だけでなく悪魔の全身がまるでマジシャンがトランプを飛ばすように、バラバラバラと紙幣に変わり、おれはその濁流に飲み込まれた。
やった! やったぞ! これで人生怖いものなしだ!
おれは勝利の雄叫びを上げた。
「メエエエエエエエエエェェェェェ!」
……え?




