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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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トラブルシューティング

「サム! サム! おい死ぬな! サァァーーーム!」


 ……サムは死んだ。思えば政府主導のこの火星開拓計画は杜撰なものだった。これまでも何人もの仲間が装備の不具合や争いで死んだ。パニックを起こし、自殺した者まで。ただ一人、俺だけが残された。だが、それもじきに……。

 なんて、弱気になるなと仲間たちが笑うだろう。同じ笑いでも寂しく仕方ないさとそう言ってくれるか。

 機転を利かせ、ジャガイモを育てたりもしたが、食料はもう底を尽きかけている。

 問題はそれだけではない。サムを仲間たちと同じく、この火星の土に埋め終わり基地に戻ったところでアラームが鳴った。これは基地内の酸素が残りもうあとわずかだというサインだ。

 この前から送っている救援信号が地球に届いていたら、あるいは……いや、期待はできない。機械の不具合はそこかしこで起きているのだ。思えばトラブル続きだった。一つ終わればまた一つと。

 けたたましいアラームが鳴り続く。赤いランプで船内が血を被せたように染まる。ここまでか……ん、なんだ? ドアが勝手に……。まさか、地球から――


「うわ! な、なんだお前ら!」


「ジュワヴァボボブバ」


 現れたのは剥き出しの脳みそに二つの目玉。そして何本もの触手が蠢いている吐き気を催すような奇怪な生物。

 しかし見覚えが、いやまさか、こいつらが火星人? こんな、オーソドックスな見た目……。やめろ、来るな! やめてくれ! こんな最期あっていいはずが――




「よし、ここまでだ。ふふ、はははは! いやぁ最後のはやりすぎだろう。おっと失礼。目覚めたようだね」


「な、ここは、救助? 俺は助かったのか?」


「ふふふ、救助? ははははは! 記憶が混乱しているようだな! 覚えてないかね?」


「え? あ、あ、あ……」


 そうだ、俺は確か……何かの……いや、待て。あれは


「お、おい、い、今運ばれていったのはサムか? サムなのか!?」


「ん、ああ? サム、サムね。そうだとも。残念ながら死んだよ」


「今、俺が乗っているこの台……。それに頭に被せたこの装置。ああ、頭がハッキリしてきたぞ。実験、そうだ、俺たちを実験台にしやがったな!」


「人聞きが悪いね。君たちは志願してきたじゃないか」


「志願……ああ、確かにそうだった。刑期の短縮と引き換えにな! 死――」


「『死ぬなんて聞いてなかった』かい? 仕方ない。シミュレーションとはあらゆるトラブルを想定し、行うものだ。実際に起きたとき、スムーズに対処できるようにね」


「わざと俺たちが死ぬようなトラブルを仕向けたのか」


「どう反応するか見たくてね。死んだのは結果だよ。別に生き残ってくれても構わなかったんだ。まだまだ試したいことはあるからな。さ、次の人材が来た。だがせっかくだし君にも引き続き取り組んでもらうとしよう。次は深海探査だ」


「い、いやだ、やめろ、やめろおおぉぉー! …………あれ?」


「お気づきになられましたか大臣、ええどうぞ、もう装置を外して結構です。今体験していただきましたのが、今回我々が提案した囚人を活用したシミュレーションです。いかがだったでしょうか。かなりリアリティがあったかと思いますが」


 先程の暗い、野戦病院のような場所とは違う真っ白な部屋で、大臣は卵形の椅子から立ち上がり、軽く体を伸ばした。

 そして、研究者の男にちらりと目を向ける。先程、痴態を晒したこともあり、その顔がややニヤついて見えた。なので、取り繕うように咳払いをした後、口を開いた。


「う、うーん、かなりハードなようだが。ああ、残酷とまで言える」


「ええ、ごまかしなどありません。大臣はサムを抱きかかえる場面からのスタートでしたがロケットの打ち上げや、お好きな場面での検証。痛みや飢えなどあらゆる感覚をこちら側から操作し、パニックを起こさせることも可能です。

全ては想定外に対応できるようにするために。それで、どうでしょう? 認可していただけますか?」


「……まあ、いいだろう。どうせ私が体験するわけじゃないんだ」


 大臣と研究者の男は、にこやかに握手を交わした。

 だが、装置の影響なのかまだ頭がぼんやりする。もしかしたらこれも何かのシミュレーションなのでは、そんな考えが大臣の頭をよぎったのだった。

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