透明薬
とある研究所。その扉を勢いよく開け、慌ただしい足音を響かせる者があった。
「博士! 博士!」
「おお、君か。早いな、まだ連絡して十分も経っていないと思うが」
「はぁはぁ、そりゃ、自転車を飛ばしてきましたからね! はぁはぁ、そんなことよりもついに完成したって本当ですか!?」
「ああ、これだ」
「それが、はぁはぁはぁ透明薬……はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
「さらに息が荒くなったな。まさかイヤらしいことに使おうという訳じゃないだろうね」
「ぐぅふぅ! そんな訳ないじゃないですか! 人を何だと思ってるんですか!」
「どうも怪しいが、まぁ他に実験だ……友人もいないしな。で、本当に飲むのかね?」
「ええ、飲みますとも! 博士の事は信頼してますからね! 因みに動物実験などは?」
「これだ」
「これは……ただの空のケージっとお!? 動いた!?」
「マウスに注射したんだ。するとこうなった訳だ」
「さすが博士! では早速……」
「あ、もう飲んでる。説明がまだなのに……腰に手を当てて飲むのは無意識かね? まあ、別にいいが」
「ぷはぁ! ごちでした。お、おおおお? なんだか肌がむず痒いですね。ふふふふ、これで好き放題ふふふふふ」
「あー、やはりか」
「ふふふ、気づいたって遅いですよ。まずは女湯かな、それともどこかの会社の更衣室」
「いや、そのことじゃなくて」
「はい? ん、なんだ、皮膚がボロボロに、うっうああああうああああ!」
「やはり、そうなったか。マウスも同様の反応を示したんだが」
「かゆい! ああああ! 痛い!」
「皮膚と肉と骨が徐々に削ぎ落とされて行くんだ。たださっき君が見たとおり、人の目に映らなくなるんだが、それが生きているのか、それとも死んでいるのかわからなくてね。何せマウスは喋らんし」
「いたいいいいいいぃぃぃ! ああああああ! あっ、あっあっあああううううううああああ!」
「うんうん、苦しいだろう。さっ、こっちへ。そう、この檻に入って。まだまだ時間はかかるからな。後で質問させてくれ。その時の君が透明人間なのか、それとも地縛霊なのかを」




