奮励の結晶
はぁ、はぁ……。私たち二人の息遣いが時折シンクロする。隣で走る彼女と目が合った。どこかこそばゆく思ったのか彼女の表情が和らぐ。だが、すぐにまた険しくなった。当然だ。
「待て!」
「止まれ!」
「こっちだ! 追い詰めろ!」
追手の数は十や二十じゃない。掟を破れば死。侵入者は言わずもがな。ここまでまるで映画のようにうまく危機を潜り抜けてきたが、そう、それこそ今が最大の山場だ。絶対にしくじるわけにはいかない。
彼女が私の手を痛いほどギュっと握る。怖いのだ。きっと。
私は強く握り返した。絶対に離すものか、と。
「……よし! あそこだ! でも、本当にいいのかい?」
「ええ、貴方とならどこまでも!」
「じゃあ、二人で押そう!」
「はい!」
私たちは事前に仕掛けておいた爆破装置のボタンを押した。
轟音と共に崩れ行く地下帝国への入り口。栄華も何もかもすべて今、完全に閉ざされたのだ。
天井の崩落を恐れ、また走り出した私たちだったが、進む先に光が見えた時、歩を緩めた。
洞窟の出口に近づくにつれ、彼女の顔に輝きが戻る。私を見つめ、そして私が見つめ返すと少し照れた顔。僅かに差し込む太陽の光。それでも眩しい彼女の微笑み。私もまた彼女に微笑み返す。そして
「さあ、これを被って」
「ん、何この布? それに目隠し?」
「外は眩しいからね。太陽の下に出るのは初めてだろう?」
「ええ、楽しみだわ!」
「うん、でも肌をしっかり隠して。ほら、肌に悪いかもしれないからね」
私は用意していた布を紐でしっかりと彼女に巻きつけた。美しい彼女を誰かに見られては困る。まだな。
「おっと」
「どうしたの?」
「なんでもない。靴の中に砂利が入っていただけさ」
私は脱いだ靴をひっくり返し、二度ほど叩いた。するとキラキラとした粒が地面に散らばった。
地下帝国のなごりか。砂利ほどの大きさのダイヤモンドなど彼女の前では拾う価値もない。
私は彼女の硬い手をしっかり握り、洞窟の外、光の下へ……。




