ある名場面
「……ケンジさん? 嘘、そこにいるのはケンジさん、貴方なのね!」
「……」
「ねえ、そうなんでしょ? ねえ……」
「チッ」
「……ああ、そうだよ。ミホさん。僕だ……」
「ケンジさん……嬉しい。でも、どうしてこっちに来てくれないの?」
「それは、その……」
「私ね――」
『ホンマかいな!』『ナハハハハハ!』
「ごめん、テレビの音で聞こえなかったよ……」
「ああ、そう。そうね……」
「……チッ」
「ケンジさん……私、あなたにずっと会いたかったのよ」
「……本当かい? 僕もさ。また会えたらどんなに嬉しいかって、でも……」
「ケンジさん……」
「……ああ、わかってるんだ。僕はもう死んでいるんだってことは。だから、本当は君に会わない方がいいんじゃないかって、君を、君を幸せにできないから……無意味なんじゃないかって……」
「バリボリバリボリ」
「ケンジさん……そんなこと、そんなことないわ!」
「ミホさん……相変わらず優しいね。君を置いて死んだ僕を許してほしいとは言わない。ただ、どうしてもこれだけは言いたいんだ」
「ゴキュゴキュゴキュ」
「なに、聞かせて……?」
「君を、君を、ふぅ……」
「……チッ、チッ」
「あー、君をね、君をいつまでも愛しているって!」
「ケンジさん!」
「バリボリガリ」
「喧嘩したまま僕は死んでしまったからね……。これだけは、どうしても伝えたくて」
「ケンジさん……あのね。実は」
「ん、なに? ああ、もしかして、もう他に好きな人が……いいんだ、当然さ。君には幸せになってほしいから」
「違うの。実は私もあの後すぐに事故にあって」
「それは本当……ああ、なんてことだ……」
「いいの、ケンジさん。だって私たち――」
「ババリボリボボリ……ゲホッゴホッ、オエッ」
「……私たち向こうで幸せになれるじゃない!」
「ああ、ミホさん!」
寄りあい、抱き合う二人。それを祝福するような光が包み、その姿を薄く、薄く、そして消えた。
……と、部屋の明かりをつけた女がぐぐぐっと背伸びをした。
「やーっと消えたか。あの男が来るまでずっーとシクシク泣いてやがってあの女。
しかし、霊道か何か知らないけど、ほんとひっきりなしに今みたいな連中が来て困るよ。せっかくのテレビタイムがまったく……グスッ」




