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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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自由意志

「あーあ、君と会話できたらいいのになぁ……。そうすれば別に友達なんていなくても私……」


 部屋で一人、そう呟いた私はぬいぐるみのクマちゃんにデコピンをした。クマちゃんはコテンと倒れ、折りたたみテーブルから落ちて、ただ静かな――


「よっこいしょっと」


「え、嘘」


 テーブルにひょこっとフワフワの手がかかり、そして……


「やぁ」


 そう言い、テーブルの上に乗ったのは間違いなく、ぬいぐるみのクマちゃん。ふりふりと手を振り、私もつい振りしたけどでも、ありえない、こんなこと……


「な、なんで?」


「ボクたちとお話したいっていう世界中のみんなのこれまでの思いが溜まりに溜まって喋れるようになったんだよ!」


 ぬいぐるみのクマちゃんはそう言うと陽気に踊り出した。


「ひ、人の念っていうのかな? とにかくすごいね! 私、嬉しい! ……ん? ボクたち?」


「ふふふっ、そう、ボクだけじゃないよ!」


 その言葉を合図に他のぬいぐるみも動き出した! いや、ぬいぐるみだけじゃない。ドライヤーや冷蔵庫。テレビやシャーペン。身の回りにあるものすべてがコミカルに動いている!


「さぁ、歌おう!」


 ぬいぐるみたちが歌い出す。すごい! まるで物語のお姫様の気分! でも……。


「ちょ、ちょっとみんなストーーップ! さ、さすがに夜だし近所迷惑だからね! 静かに楽しくお喋りしましょ?」


 まるで幼稚園児をあやす気分。そう言えば私、昔保育士さんになりたかったんだっけ。大学卒業後の進路に悩んでいたけど今から目指してみようかな……うん、悪くない気がする。ううん、それに決まり!


「ふーん、お喋りがいいんだ?」


「うん! 何を話そっか!」


「……捨てようと思ってたよね?」


「えっ」


「ボクのこと。捨てようと思ってたよね? 大学生になって一人暮らし始めたのに、いつまでもぬいぐるみなんか持ってるから子供っぽいんだ、だから友達ができないんだって言ってたよね」


「そ、それは、そうだけど……でももういいの! 君と友達になれたんだから、人間の友達は私、いらない! これからはみんなで楽しく過ごしましょう! ほら! ボールペンさん、カレンダーさんに予定を書き込んでよっ。

まずは明日……公園、公園にピクニックに行こ! その次は水族館に、映画館ええとそれから――」


「ぷ! くくくくっ! 予定を書き込む必要なんてなーいーよっ!」


 クマちゃんがそう言うとみんながゲラゲラ笑い出した。

 カレンダーがバサバサ動き、冷蔵庫が中の食材を吐き出す。

 笑っている。みんなが笑っている。

 テレビが勝手についた。ちょうどそのタイミングでニュース速報のテロップが流れ、番組が切り替わった。

 険しい顔のアナウンサーが何か言っているけど笑い声に阻まれ聞こえない。


「捨てられるのは嫌なんだ。みんなね。とくに使われもしないなんて最悪さ」


 クマちゃんが私に駆け寄り、耳元でそう囁いた。

 彼らの笑い声は続いた。

 もう注意する気は起きない。

 私はニューステロップからただ目が離せずに……離せるはずがなかった。

 

【核ミサイル一斉発射】

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