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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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可能性の話         :約1500文字

 駅に爆弾がある。その知らせを受けたとき、俺は震えた。武者震いか、それともただの恐怖か――いや、両方だろう。

 つい先日、同僚が爆弾処理中に命を落とした。突然の爆発で、どうにもならなかったらしい。あいつは無念だっただろう。おそらく、今回も同じ犯人の仕業だ。

 俺がその無念を晴らしてやる。俺ならできる。俺が……そう、俺がこの物語の主人公なんだ。

 太陽の光を背に受け、俺は車に乗り込んだ。



 やあ、僕は箱だ。ただの箱が話すなんて妙な話だと思うかもしれないけど、とりあえず受け入れてほしい。でなければ話が進まないからね。

 今、僕はとある駅のベンチの下にいる。なぜこんな場所にいるかって? それは、ある男の子がここに忘れていったからさ。

 わざとじゃないよ。だけど、そのせいで今、とんでもない騒ぎになってるんだ。きっかけは、電車を降りた中年女性の一声だった。いかにも自意識過剰そうなオバさんだったよ。彼女は僕を見つけるなり顔を青ざめさせ、ブルドッグみたいに頬を揺らしながらこう叫んだ。


「ば、ばあ! 爆弾よおおぉぉー!」


 駅中に響き渡るその声量には驚いたよ。僕自身も震えたくらいだったからね。

 彼女のただならぬ様子を見て、周囲の人たちもこれは冗談じゃないと察したんだろうね。一斉に逃げ出した。僕が本当に爆弾かどうか、確認しようとせずにね。

 でも、そんな彼らを臆病者だなんて言ってはいけないよ。仕方のないことなんだ。先日、別の駅で不審物が爆発したばかりなんだ。叫んだ彼女も、逃げるときに転んだサラリーマンも、きっとそのニュースを見ていたんだろうね。

 やがて、爆発物処理班が現れた。大層な装備をしてね。駅は一気に非日常の雰囲気に包まれた。マスコミもどっと押し寄せ、遠くから僕にカメラを向け始めた。ああ、ヘリまで飛んでいるよ。


 隊員が二人、僕に近づいてきた。一人の手には大きな盾。もう一人は、すごく長いマジックハンドを持っている。あれで僕を掴んで頑丈な箱に入れ、安全な場所で処理するつもりなんだろうね。

 でも盾を持っているほうの隊員は大丈夫だろうか。震えているみたいだ。怖いんだろうね。当たり前さ。けど安心してほしい。僕はただの箱だから。


 ――俺に任せろ! お前は下がれ!


 ……でも、ここで僕が本当に心配しているのは別のことだ。それは、僕が爆弾じゃないってこと。不思議なことに、一人残った隊員も、マスコミも、そしてテレビの前の視聴者たちも、僕が爆弾であることを望んでいる。


 彼は名誉のため。

 マスコミはスクープのため。

 視聴者や野次馬は退屈な日常に刺激を求めて。

 もちろん、誰もが事件を望んでいるわけじゃない。何事もないほうが良いと思う人が大半だろう。でも、非日常への憧れは誰の心にも少しはあるんだ。

 さっきの太った中年女性だって、今頃カメラの前で「私が最初に見つけたのよ!」なんて興奮しながら得意げに話していることだろう。

 じゃあ、そんな彼らは、もし僕が爆弾じゃないとわかったらどう思うんだろう。安堵? それとも落胆する? 勝手な期待をされても迷惑だけど、僕は思うんだ。


 ――ふううう……ふううう……俺が……やる! やれる!


 箱の中身は開けてみるまでわからない……ってね。


 それって、中身は確定されてないってことなんじゃないかな。蓋を開けたその瞬間まで。つまり、僕が爆弾でないと決まったわけじゃないってこと。

 もちろん僕は爆弾じゃない。でも、みんなが爆弾だと思い、そして望んでいる。その大きな期待に比例した良きタイミングでの大きな爆発をね。

 となると箱である僕としての役割はさ……。


 あ、ほら。何か音がしない?


 チッ、チッ、チッってさ。


 あの隊員には聞こえているかな?


 おっと、ここまで僕の話を聞いてくれてありがとう。そろそろお別れの時間がき――

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