自覚症状
夜。とある家のリビング。その子供は立ち去ろうとしては踏みとどまり、また口ごもりとそれを何度か繰り返し、やがてどうにでもなれと意を決したように言った。
「ねぇママ……」
「んーなぁに?」
「ん……その」
「なによー。洗い物があるんだから、ほら言うなら言ってよ。それかパパにしたら?」
そう言われ、子供はんん、と口ごもり、テレビの前のソファーに座るパパに目を向け、次に下を向くと、話すならママが良いと思ったようで口を開いた。
「ん……実はね……今日、帰りにね……。ぼくと……ぼくと、そっくりな子を見かけたんだ。
ねぇ、あれ、ドッペルゲンガーってヤツだよね? ぼく、死んじゃうのかな……?」
「そ、そんなことないわよ。あなたは大丈夫」
「本当? でも見たの、一人や二人じゃないんだよ? ぼくと似た顔の子が他にもたくさん……」
「大丈夫、気のせいよきっと。さ、自分の部屋に戻ってもう寝なさい」
「うん……あ、今日はおじいちゃんと一緒に寝ていい?」
「ええ、いいわよ。でもあまり触っちゃだめよ? おじいちゃん、眠っているんだからね。さ、おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい……」
「……あなた、今の話聞いた?」
「ああ、明日にでも見てもらいに行くしかないか……」
翌日、一家はその店に足を踏み入れた。ただし、子供は眠ったように父親の背に。
「いらっしゃいませ! どのようなご用向きで?」
「実は息子が例の……」
「あーはいはい! 交換ですか? それとも調整ですか?」
店員は父親の背にいる子供に目を向け、そう言った。
「いや、そこにいる妻とも相談したんだが愛着があるからできれば調整でお願いしたい」
「はーい、調整っと……ああ、奥さんはまだ平気ですか?」
「ん、何がだ?」
「自覚症状は出てませんか? 自分がロボットだって」
「ロボット? 妻が? はははっ。妻は……」
「ん? どうしました、固まって……あー、なんだ。こいつもロボットかよ!
おい、誰か手の空いてるヤツ! 所有者を調べろ! ったく、どういう悪戯なんだか……。
ん、わかったか? あん? じいさん? 登録日がそれ? いや、その年齢で生きてるわけないだろ! 野良だ野良! 当局に連絡しとけ!」




