心理状態
「何だ……ここは……おい何だ! 動けないぞ! おい、おい! 眩しい! ライトをどけろ!」
「しぃー、落ち着いてください。貴方は事故に遭われたのです。覚えていませんか?」
「あ、おい、あんた医者か? ん、事故……?」
「ええ、そうです。ここに運び込まれたときにはひどい有様でした。それこそ医者が匙を投げるほどにね」
「そう……か。だが、こうして会話できているということは治してくれたわけだな? それでいつ退院できる? 俺は忙しいんだ。ま、俺が誰だか知っているだろうがな。雑誌くらい読んだことあるだろう?」
「それなんですが……。先程申し上げたとおり、貴方はひどい状態でして」
「それがなんなんだ? 治るんだろう? いや、そもそも本当なのか? 体がまったく痛くないが」
「足の感覚はありますか?」
「何? ……おい、いや、待て。足の感覚はないがそれは……そうだ! 麻酔をしているからだろう? なぁ?」
「いいですか、落ち着いて聞いてください。貴方の足は事故により復元不可能なまでに損傷していましたので切除しました」
「切除……切除だと! おい、ふざけるなよ! 勝手に、俺の、俺の足だぞ! そこらのヤツより何倍も価値があるんだ! クソ! ……お、おい、まさか」
「腕の感覚がありませんよね? そう、腕も切除しました」
「りょ、両方か? 両腕両足?」
「はい」
「あああああ……そんな、勝手に、本当に、切らずに何とかならなかったのか……?」
「それに」
「まだ……何かあるのか? いや、だが……」
「何とか残そうと試みたのですが足だけではなく腰から下も」
「は、ないのか? いや、そんな馬鹿な」
「はい、でも実は」
「いや、いやいやいや、これ以上はもうないだろう」
「胴体もひどい状態でして」
「いや、待て。さすがにそこは切除したなんて言わないだろう? 心臓なしで生きていられるはずがない」
「いえ、実は一箇所を除いて全て損傷していまして」
「一箇所? 心臓か?」
「脳です。脳は無事でした。なので貴方の脳をアンドロイドに移植したのです」
「そんな、まさか……脳だけ」
「正確には脳の一部です。残念ですが……。因みに脳の大部分は機械で補うことができました」
「はは、はははは……おい……おいおいおい! 何とかならないのか! そんなの人間と呼べるのか!? おい! おい!」
「落ち着いたら手足を取り付けますので、ではしばらくはお一人で……」
「おい! 行くな! おい! 俺を元に戻せ! おい! 誰か! おい!」
……と、その様子をモニターで見ている二人の男がいた。
「どうだ、様子は?」
「ずっと叫びっぱなしですね。どうやらアンドロイドに対し拒否感があるようです」
「それにしても……まさかこんな夢を見るとはな」
「そうですね……。どう報告しましょうか? ショッキングすぎますよ。
『世界初、休眠状態の人工知能が夢を見ていることを発見し、その夢をモニターで観ることができました。でも内容はちょっと言えません』
じゃ、報道陣や世界中の人は納得しないでしょう。いずれ、この脳はアンドロイドに搭載するっていうのに……」
「うぅん……。『アンドロイドはアンドロイドの夢を見た』じゃ、駄目だろうか……」




