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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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金縛り

 あぁ……うっ……あぁ……おっ、なんだ。夢だったか……。嫌な夢だ。今は、まだ夜な……いや、なん、え、瞼が開かない……だけじゃない……体が全く動かない。一体何が、何が起きているんだ! ……などと慌てるつもりはない。

 これは金縛りだ。もちろん、霊的な現象じゃない。ただの体の疲れ。脳だけが目覚めて体はまだ眠った状態というわけだ。これがあいつらなら慌てたり怯えたりしていたかもしれないが、おれはもういい大人だ。はしゃぐつもりもない、が明日起きたら話してやろうかな。それなりに盛ってな。さて、鳥の声もしないし、今が夜なことは確かだろう。このまま眠るか。


 ……今、物音がしたか? いや、ただの家鳴りだな。そこそこ年数の経った一軒家だ。よくあることだ。

 ……今、呼吸の音が。いや、風の音だろう。ふん、怖いものか。幽霊なんかいやしない。




 ……結局あれから一睡もできなかった。鳥の囀りからして朝。まったくえらい一日の始まりになってしまった。

 しかし……いつまで動けないんだ? 何度試みても、駄目だ。まだ体を動かせない。


「あなたー? もう朝よ、珍しいわね……」


 おお、いいタイミングだ。いいぞ、さぁこっちに来てくれ。


「変ねぇ、もう出かけたのかしら」


 いるぞ。ああ、どうも抜けてるんだよなぁ。このまま気づかれない可能性も出てきたな……。


「あなたー?」


 お、よし、今のはドアを開けた音。よく来たよく来た。さぁ叩いてもいい。おれを起こしてくれ!


「あなた、ねえ、ねえ……え、あな、え? え、え、え、嘘! え、ねえ!」


「ねえ、なにー? 朝から騒々しいよお母さん……」


「ちょ、ちょ、お父さんが!」


「えー? ただ寝てるだけでしょ? ほら……え、起きない。瞼を……白目だ! 嘘! これ死んでない!?」


 死んでいるものか! ほら! 心臓の音を聞け!


「あああああ、どうしよう。救急車! いや、警察!?」


「え! 待って! 呼ぶならせめて着替えさせて」


「そ、そうね、お母さんも化粧がまだだわ」


 いや、いやいやいやそんなことはいいだろ! おい! 行くな!


「でも、その前にせめてほら布かぶせてましょう……。白目剥かせたままだし、ふっ。このままじゃ可哀想よ」

 

「あぁ、確かに。死んだ人にはそうするんだよね。でも布……あ、枕でいいんじゃない?」


「あ、そうね。そうしましょ!」


 おい、おい! 馬鹿! それじゃ息ができないだろう! おい! ……おい、まさか、え、このまま死ぬ? あの二人のせいで?

 いや、さすがに間の抜けたあの二人とはいえ、死人と見間違うか? もしかしたらすでにもう、本当に……。

 それにさっきから感じる気配。気のせいでないとしたら死神の迎えだろうか。それとも、この金縛りの犯人の幽霊か。

 いくら叫び声を上げても頭の中に留まったまま出て行かない。

 金縛りなのか、それともこれが死の形そのものなのか。火葬場で焼かれるまで意識はこのまま肉体に留まるのだろうか。果たしてどちらだろうか……なんだか意識が……ああ、体から感覚が遠のいて……。

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