出廷
「ここは……?」
道を歩いていたはずなのに、気づけば僕は透明な筒の中のような場所にいた。そのガラスの向こうで三人の男女が僕を見下ろしている。
僕が声を出すよりも早く、真ん中の女性(一番偉そうな)が口を開いた。
「被告人は二〇二二年三月六日午後二時四十分二十四秒にコンビニ内にて、週刊誌のグラビアを立ち読みしていたことが確認されている。これは重罪である。よって、マキミアプリカントの刑に処する」
「ちょ、ちょっと、え? あの、マキミアプ? いや、待ってください! 違反? 立ち読みが? 確かに購入しなかったけど」
まったく訳が分からない。ここは夢の中? でも匂いも室温も感じられる。リアルだ。とりあえず反論しておいた方が良いと思ったけど、女性はもう説明はし飽きたといった風な、ため息をついた。
「ここ、未来においてグラビア雑誌を見ることも購入することも法律違反なのです」
「で、でもそんな法律なんてあるわけ……うん? 未来? じゃあ、この中はタイムマシンみたいなやつ?」
「そうですね。過去の罪を裁くために、その転送装置で貴方をここに呼び出したのです。そして、貴方にとって現在は合法な事でも未来では違法なのです」
「そう、い、いや、ま、待ってください。遡って罪を裁くのもおかしいし、それにしたってグラビア雑誌を見たぐらいで……。
もっと他にも未来の法律を違反した人がいるでしょう? いや、そもそもこの時代の人の罪だけを裁くべきだ!」
「まったく……。いいですか、この今、つまり貴方にとって未来では罪を犯す人間はいないのです。
頭に埋め込まれたチップが制御していますから平和そのものなのです。なので、我々は過去の人間を裁き、罪の清算していくと決めたのです。我々の法に照らし合わせ、過去にその法律がなかったからと、裁かれなかった人間をね」
「そんな無茶苦茶な……それにさっき言った何とかの刑って」
「それはこのボタンを押せばすぐに済みます。ついでに教えてあげましょう。こっちのボタンは貴方を過去に戻すものです。刑を執行した後にこのボタンを押し、元の時代と場所に戻して差し上げます」
「わからないけど怖そうだ……。お願いです、もう一生見ませんから、なんとか過去に戻すだけにしてくださいませんか?」
「それは無理です。いくらここで誓っても過去に戻ると同時に、秘密保持のためにここでの記憶は消去されるので」
「そんな……ん、え、じゃあ裁く意味もないんじゃ? 反省、心を入れ替えることもできないし、仕事をしている振りと言うかただの暇つぶ――」
カチッ。




