表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

260/705

景観

 とある警察署。部屋に入った刑事はテレビを囲む同僚たちを見て、声をかけた。

 

「うっーす、何を集まっているんだ?」


「お疲れ様でーす」

「おーっす」

「どーもっす、先輩。例の仏さんなんですけど」


「ああ、崖から滝壺に落ちたってヤツか。顔を打って潰れてたんだろう? ひでえよな」


「はい。その落ちたと思われる場所からビデオカメラが見つかりまして」


「これから鑑賞会って訳か」


「そんな趣味の悪い言い方しないでくださいよ」


「すまん、すまん。お、これか」


 テレビ画面に映った顔。なるほど死相が出てるっていうのはこのことだな。と刑事は思った。

 青ざめてこけた頬は黒ずんでいる。まるで覇気がない。力なく下ろした肩。三脚でカメラは固定しているのか、景色をバックにピッタリと男の胸より上が画角に入っている。

 被害者が落ちたと思われる崖の上、その先端まで恐らく数歩の距離。景色に夢中になり、足を滑らせた可能性もなくはないが、まあ自殺だろうなと刑事は思う。

 ……ん? ブツブツと呟くように口が動いている。声。何か喋っている。と、刑事は顔をテレビに少し近づける。滝の音が若干ノイズになっているが聞き取れなくはない。恐らくは遺言、独白の類だろう。同僚もそれに気づき、テレビの音量を上げる。


『素晴らしい景色だ。来てよかった。聞いた話では時々、虹が出るらしい。ぜひ目にしたいものだ』


「死ぬ前にってか。そこで死ねば、その素晴らしい景色にケチがつくってのに」

「しーっ」

「うーん」


 同僚たちは刑事がそう言いたくなる気持ちもわかるというように、フッと笑いどこか空気が緩んだ。男は暗い顔のまま、ガイドのようにぺらぺらと喋り、景色を紹介している。


「もう少し楽しそうな顔をしろよ」

「無理でしょう。この後死んじゃうんですもん」

「ふふっ」


『独り占めするのがもったいないと思うほどだ。彼女でもいればなぁ』


「道連れがいなくてよかったよ」

「はいはい」


『えー、それで……おぉ、鳥だ。見たことがない。なんという鳥だろう?』


「……ここで終わりか?」

「は、はい。先輩、今の……」


「……もう一度、最初から再生してくれ」


 映像が終わる前、男は鳥を映そうとしたのだろう、カメラを空の方へ動かした。

 そう、初めから固定などされてなかったのだ。ずっと手に持ったまま喋っていた。

 では、真正面に映っていたあの男は誰だ? 友人? それにしては楽しそうではない。むしろ……恨みがましく。まさか、あの男が殺したのか。


「せ、先輩……」


 刑事は返事をしなかった。誰も。無言がさっき見たものを、そして今見なかったもの、その存在を肯定していた。


 最初から再生し直した映像から、あの男が消えていた。

 テレビ画面には、ただ見惚れるような美しい風景だけが映し出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ