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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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偽りの愛

 ママ、どうしても飲まなきゃダメ?

 ……なんて、ぼくは何回思っても、一度も言えずにいる。だって言ったらすごく怒るんだ。

 でも、お薬を飲んでも体調が良くなった気はしないんだ。最初のほうは効いてたみたいだけど今はあまり……。それなのに、お薬の量はいっぱいになっていく。

 ジャラジャラジャラ。手の中で転がす、この音は好きだけど、でも……。


 ……やっぱり訊けないや。ママが、ぼくのためを思ってやってくれていることだから。いつも、ママはそう言っているから。

 だけど、病院ってところに連れて行ってくれたらいいのに。悪いところを治してくれる場所だって、前に友達が言ってた。そうすればきっと、ぼくも元気に。友達ともまた会えるよね。

 でも、それも言えない。やっぱりママが怒るから……。

 元気なころは楽しかったなぁ。ママと一緒に外に出ると、色んな人から声をかけられるんだ。可愛いねって。ぼくはうれしかった。ママもうれしそうな顔していた。

 ぼくの具合が悪くなり始めると、知り合った色んな人が心配してくれた。ママはそれにも笑顔で応えた。

 でも、最近は誰とも会っていない。ぼくのおたんじょう日にも。

 おそうしきっていうのをやる時にみんなと会えるかな?

 ぼくのお兄ちゃんの時は、いっぱい人が来たってママが言ってた。

 いつやるのかな? すぐがいいな。でも、ぼくはやっぱり誰とも会わせてもらえないのかな。

 この部屋で、ひとりきり……。


 ……ねぇママ。本当にこのお薬は、ぼくの体を良くするの?

 時々、ママがしている怪しい電話。このお薬を買うためのものだよね。


 ……ごめん、ママ。


 今日は、お薬、おやすみするね。でも、これできっと良くなるから……。きっと、きっと眠ったら元気になってるから。……なってるといいな。なっていますように……。




 ……う、ううん……まだ暗いや。夜中かな。起きちゃった。

 なんだろう、体が熱いや。でも、良いことだよね? だって普段はすごく冷たいんだもの。

 ママはまだ寝てるかな。もう一眠りして、朝になれば、きっと元気になるよね。

 ……あれ?

 なんだろ? この白いの。

 アイス? ボクが熱いからママが置いてくれたのかな。

 うれしいな。やっぱりママは優しいんだ。




 早朝、その家に住む母親が逮捕された。

 きっかけは近隣住民の通報。あまりに長く続く悲痛な叫び声に、不快を越え、恐怖心を抱いたゆえのものだった。

 罪状は違法薬物の所持。息子に飲ませていたものだと思われる。


 事のあらましが明らかになり『息子製造キット』の販売停止が決定された。

 親による幼い子供への虐待が社会問題となり、事前に子育てを体験する目的で作られたこの製品は、情が移り過ぎないようにと二ヶ月で三歳までを体験できるはずが、非公認の薬品で延命を謀る親が続出したのである。


 今回明らかになったケースでは、購入履歴から算出し、少年の年齢はなんと倍である六歳だと推測された。

 とは言え、当記者が近隣住民に聞き込みを行った際、話の中に「あまりみかけることはなかった」「最近は特に見ない」などがあったため状態は悪かったと思われる。

 また、この母親は購入資格である若い夫婦という条件に当てはまらないため、そもそも製品を違法に入手していたと思われる。

 さらに調べを進めたところ、数年前に子供を亡くし、夫と離婚していることがわかった。恐らく子供を失ったことによる心に空いた穴を塞ぐために手にしたと思われる。

 また、延命された製品がどの程度の知能、感情を持っていたかは不明である。

 ベッドの上にはヨーグルトのようなドロドロの物体だけが残されていたという。

 警官に引き剥がされるまでそのそばを離れようとはしなかった母親の痛ましい心中が察せられ、こちらも深く同情するとともに、当記者は引き続き、母親の素性を調べ、事件の全容を明らかにしていこうと思う。

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