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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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ナイトタイラー(没集)

「さぁさぁ、ようこそおいでくださいました。『ナイトタイラー』今宵も貴方に不思議な世界をごゆるりと」


 怪しい髭の司会者の軽快なトークで始まった、この深夜番組。

 初めて観たのは先月。寝付けなかった僕はこっそりリビングに行き、テレビをつけた。

 でも、どこもつまらない通販番組か放送休止。諦めて消そうとした時に放送休止画面から切り替わり、この番組が始まった。

 深夜三時のことだった。以来、毎晩チェックしてるけど不定期らしい。つまり、今夜はラッキーってこと。


 内容はショートストーリーで、フフッと笑う程度のくだらないものばかりだけど、ちょっと面白い。

 スーパーパワーを手に入れた男が空を自由に飛び回るのだけれど、調子に乗って高く上がりすぎて寒くて凍っちゃったんだ。地面に落下した彼は粉々に砕けておしまい。痛快だった。

 他には、向かい合う一軒家がクリスマスのイルミネーションの派手さで競い合うのだけれど、そのうち、イルミネーションで形作った動物や人が動き出して争いを始め、結局両家とも滅茶苦茶。大きな鹿が跳ねまわり、戦車がドーン! バキュン、ドキュン! 南北戦争をモチーフにしてたらしい。調子の乗るもんじゃないね。

 あと、お風呂の栓を抜いてできた渦に何となく指を突っ込んだら吸い込まれ、ミキサーみたいにぐちゃぐちゃになったり、とにかく荒唐無稽って言うの? そんな話ばかりだ。


「さぁ! 今夜のトップバッターはぁぁぁ……この男! 夏の夜、上半身裸で街中を堂々と歩いていますねぇ」


 どれどれ、若そうだ。うん? 背中に何か……。


「彼、自信に満ちた顔をしてますが、その理由は背中に彫ったタトゥー。元々、気弱でカツアゲなど、なにかと不幸な目に遭ってき彼はある時、思い切って背中に大きな二つの目玉のタトゥーを彫ったんですねぇ。目玉模様の昆虫がいるでしょう? あのように威嚇目的なわけですねぇ」


 なるほど。効果はあるみたい。飲み屋の屋台から出てきたお客さんが、おっ! って驚いた顔で彼の背中を見つめる。

 彼は時々クルリと回り、背中をすれ違う人に見せている。その度に、彼の背中を目にした人が動きをビクッと止め、彼はそれを愉快そうに眺める。


「そして思惑通り、こうなった彼にからんでくる者はいませんでした。気が強くなった彼はその四つの目で、あっちへこっちへ睨みをきかせます」


『お前を見ているぞ! お前も! お前も! お前も! お前もだ!』


「彼は広場の筋骨隆々なギリシア人の像の上にのぼり、通行人を指差し、高笑いをしました」


『はははははっ! 俺は自由だ! もう誰も俺に構うな! ははははは! あ――』


「……と、その時でした。空から巨大な影が彼を覆ったかと思えば、彼はその一瞬の間に姿を消しました。

そうです。彼の背中のその巨大な目は却って目を引くことになってしまったのです。より強い、捕食者に……」


 終わった。「END」の文字と彼の二つの目のタトゥーが映し出されている。

 まあまあだ。さて、次のお話は何かな? トップバッターってことは他にもあるはずだけど、何本あるかも決まってないんだよなぁ……お。



「さあ、お次のお話はこの男。スーツを着た若手社員。彼は営業の帰り、会社に戻る前に喫茶店に立ち寄えおうと思いながら道を歩いていました。と、おや? 彼が何か落ちていることに気がつきましたよ」


 あれって、腕章かな?


「そう、見ての通り腕章。しかし見たことがないマークだ、とそれを拾い眺める彼は学生時代を思い返します。

腕章をつけて廊下を歩く風紀委員。カッコよかったな……と。

さてさて、大して汚れてなさそうだし、よーし……。そう思った彼が腕章を腕に通すと……」


『ん? あれ、なんだ……?』


「これは、妙だ。通行人が彼に向かってお辞儀しているではありませんか!

中年の会社員も主婦風のおばさん、親子連れ、その全員です。

その場を離れる彼。しかし、風に撫でられる雑草のように彼が通る際に首を垂れる人々。

訝しがりつつ、ひょっとしたらと思い、会社に戻った彼。

すると、やはり思ったとおり、全員が自分にお辞儀するじゃありませんか!

ちょっと気になるあの子もライバル視している同期も嫌な上司も、おおっと、なんと社長まで!」


『茶』


「ただ一言。途端にガタゴトガタッ! と、彼の目の前に出される数々のお茶。

悪くないねぇ……。と上司の席に座り足を組む彼。出されたお茶を指で倒し、社長に床を拭かせます。

ついでに靴もフキフキ。そして彼は堂々とビールの蓋を開け、喉を鳴らして飲み干します!」


『フゥウウウウウゥゥゥゥ!』


「最高の気分だ……と鼻の穴を膨らませていた彼でしたが、トントンと、肩を叩かれて振り返りました。

一体誰だ。俺の邪魔をするのは……。そう思い睨む彼。しかし、そこにいたのは体格のいい二人の黒服の男。

戸惑う彼の腕をがっしり掴み、あっという間に椅子から下ろし、そして部屋から連れ出します!」


『おい! 何を! 俺! 俺だぞ!』


「と、いう主張も、抵抗もむなしく、足を引きずられつつ運び出される彼。周りの同僚、上司はお辞儀で送り出します。さあ、これは一体……」


『お、おい! 何だってんだよ! 説明しろ!』


『貴方様の尊い犠牲に敬服します』


「男たちはとても静かな声でそう言いました。犠牲? なんの? なんで? あの腕章……目印。白羽の矢……生贄。

彼の脳内に次々と言葉が浮かび上がります。それはその先の最悪な結末まで止まることなく……」


 終わった。おおー、まあまあかな? でも理不尽なお話だね。まあ、あの人、ちょっと調子に乗ってたみたいだからいい気味というか仕方ないかな。だって、大抵そうなっちゃうもん。調子乗ったらさ。さ、次、次。



「さぁ、続いての舞台はこの研究所! 一体何の研究をしているのかぁ?」


 太っちょで髪が薄いメガネの男。白衣を着ている。研究所ね、じゃあ博士かな。この人が主人公? パッとしないなぁって大体そうか。いつも普通の人が主役だもの。

 でも、どうやら何かの実験を行うようだ。そしてその実験台はパンツ一枚で台の上に横になっている、あの男みたいだ。その手足は台に取り付けられている拘束具でしっかりと固定されているみたいだ。


『んー! んー!』


 必死になって何か呻いているけど、猿轡をされているから何言っているか、わからない。

 まあ、助けてってことなんだろうね。その目が言っているもの。男の腕には細い管が何本も刺してあって、物々しい装置と繋がっている。ワクワクするね。


『さぁ、やるぞ! おい! カメラをこっちに! はははははは、そうだ、しっかり見ててくれ!』

『んー! んー!』


 黒いゴーグルをメガネの上からつけた博士がレバーを引くと、管の中に濃い緑色の液体が流れだした。


『んー! ん、んんんんんんんん!』


 男が激しく痙攣し始めた。そして……目からとてつもない光を放ち始めた!

 猿轡が外れて口からもだ! 耳、鼻、次々と、まるで顔の下に電球を埋め込まれたように光が男の穴という穴から――


『やった! 成功だ! 成功したぞ!』


 博士が狂気的な笑みを浮かべ、そう叫んだ。これで終わり? でも、何が成功なんだろう。なんて考えるだけ無駄か。ナンセンスな物語ばかりなんだから。

 あっ、ははははは! 男の頭がボン! と弾け飛んだ!

 でも博士は気づいてないのか、まだ、はしゃいでいる。首から上がない男の体にヒビが入り始め、光がそこから漏れている。ははははは! 一体どうなっちゃうんだろう? あの体も吹き飛んで、その液体が口に入った博士も光り始め、なんて――


『君だ! 君のためにやったんだ! ハハハッ! 君を楽しませるために! 次は君の番だ! 私は! これで自――』


「……僕?」


 博士はテレビ画面に向かって指をさしていた。音が消え、光がテレビの中に満ち、やがて何も見えなくなった。


「さぁ、お楽しみいただけたでしょうか。『ナイトタイラー』次は貴方の番です」


「え」


 プツンとテレビの電源が消えた。僕はリモコンを触っていないのに勝手に……。


「……誰?」


 暗闇の中、誰かの息遣いがした気がして、僕は振り返った。

 誰もいない。でも……。

 部屋の上のほうの隅の一角。そこには何もない、暗闇だけのはずなのに、僕は何かが見ている気がしてならなかった。

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