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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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252/705

ショック療法

 その母親は、どうも精神的に相当参っていたらしい。

 理由は自分の息子だ。一人息子なのが尚更、たちが悪い。気が触れてたのさ。電波がどうのだの、監視されているのだの。あの息子の頭の中じゃ、虫は政府の監視ロボットらしい。創り上げてるのさ。終わりも救いもないストーリーをな。

 母親は医者だ薬だ、と手を打ったんだが、まるで効果がなくてな。余計にひどくなる始末。

 時折、母親を見る目が得体のしれない物を見るそれに変わるんだと。宇宙人と入れ替わってるとでも考えているのかな。

 このままじゃいつ背中を刺されるかわかったもんじゃない。だからその母親はあることをしたんだ。

 息子の頭に電気を流した? はははっ、その方が効果あったかもな。


 母親はな……引き合わせることにしたんだ。

 息子と同じようにイカれた奴をな。

 何を期待してそう思い立ったかは、その母親自身もよくはわからない。この話の冒頭に言ったように母親自身もイカれてきてたのさ。ま、当然だな。風邪がうつるように頭のおかしなヤツと一緒にいると、まともな人間までおかしくなるもんさ。

 嘘だと思うやつは一週間くらいずっと同じ部屋で過ごしてみるといいな。きっと殺すか殺されるかしてるだろうさ。

 ただ、俺は変化を期待していたんだと思う。イカれたらヤツを目の前にし『何だコイツ。どうかしてるぞ』って正気に立ち返るのか

はたまた共感し、ひどくなるのか。もしくは対消滅するのか。ははははっ。


 とにかく、母親はその青年を自分の家に招き入れたのさ。同じようにイカれた息子を持つ母親経由でな。病院かネットで知り合ったんだろう。その青年の母親も少しの間、息子と離れられるのならと、了承したんだ。でも心のどっかでは期待していたのかもな。そのまま戻ってこなけりゃいいと。

 ま、それはいいとして青年は促されるまま家に上がりこんだ。

 ドクシーはどこ? ってしきりに呟いていた。あぁ、その青年にだけに見える妖精さ。靴の中に住んでいて、エサだと言って玄関にある靴の中にメダカや金魚を入れるのがソイツの常。

 ソイツはそこでもポケットから出したドジョウのくっせえ死骸を靴の中に入れるのを母親が見ていたが、とくに咎めなかった。

 むしろニッコリってなもんさ。イカれ具合がひどいほうが自分の息子にぶつけるのにふさわしいと思っているからだ。


 母親は息子の部屋のドアを開け、中に入るよう促した。「ドクシーはここよ」ってな。

 青年が檻の罠にかかる害獣みたいに中に入ると、母親はすぐにドアを閉め、耳をピッタリとくっつけた。まるで虫かごにカマキリとスズメバチを入れた気分だっただろうよ。


「アビロロボボポポペピウム」


 聞こえてきたのは息子の声、意味不明な言葉さ。


「ドクシー! ドクシー!」


「プアプアペペリカント?」


「ドクシー!」


「パパプリコ! ドテム!」


 ドタドタ暴れる音。これはどっちのものかはわからない。

 でも、そのうち音が止んだ。

 ドアノブが回り、母親はドアから慌てて飛びのいた。

 そしてドアが開いたら……。




「それで……どうなったんですか?」


「……息子は変わらなかった。相変わらずイカれたままさ。でも家に招かれた青年は違う。言ったんだ。呆然と立ち尽くすその母親にな」


「な、なんて?」


「『あ、どうもお邪魔しました』ってさ。すっかり憑き物が落ちたみたいにスッキリ爽快。

疑念が消え何か確信を得たようにな。それでその青年は口をポッカリ開けたその母親に一礼すると家に帰っていった。そして……」


「そして?」


「アンタの目の前にいるって訳だ」


「え、じゃ、じゃあ貴方が?」


「昔の話だがな。で、アンタの息子だが、あの車の中のアルミホイルを巻いているのがそうだな? 大丈夫だ。他のヤツ同様、綺麗さっぱり解決してくれるさ」


「す、すぐに連れて来ます! よろしくお願いします!」



 はははっ。そんなに慌てなくても、あの方はどこにも行きはしないさ。

 今もあの家にいる。大分暮らしは豊かになったようだがな。

 あの母親からすれば結果オーライ。イカれた人間を治してくれるって評判になってかなり儲かっているようだ。


 ……でも、まだまだ足りない。

 なぁ、そうだろ? ドクシーよ。俺たち、仲間がみんなに気づかせてやるんだ。この世の真実をなぁ。そしていずれは……ははははははははははっ!

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