催眠術
サイアクだ。とうとうこんな手まで使ってきた。
クソババア……なんて口に出したら、またお父さんに言いつけられる。
自分で叱ろうとせず、告げ口するそういうところも、ほんと……あ。
「……先生、どうでしょうか?」
「はーい、うまくいきましたねぇ。見事にかかってくれてますよぉー」
「本当だわ。目が虚ろに……。ねえ、タダシ? どう? どう? おーい」
「おおっと、んっふふふふ。触らないでくださいねぇー。まだ予備催眠なんでねぇ。さあ今からですよぉ」
「お、お願いします。……もうほんと、この子ったらいっつもいっつも言うことを聞かなくて、できれば先生のお力でずっといい子に、この前も、この子は――」
「はい、はい、はぁーい。ええ、その話はまた今度で、ええ。ではタダシくん。今、目の前にあるピーマン。それ、嫌いだよねぇ?
うんうんうーん、わかるよぉ。でもっ、私が三つ、数を数えたら嫌いな物でも、あら不思議。
美味しく感じるんですねぇ。食べたくてたまらなくなるんですねぇ。ではいきますよぉ! 三・二・一、はあぁぁぁぁぁぁぁい!」
タダシくんは母親の指を食い千切りましたとさ。




