最強催眠術師決定戦!
「さぁさぁさぁついに始まりました世紀の対決!
解説実況はこの私、ジョーノが務めています、と、おっと、まず動いたのはコヤマ氏! 椅子に座るこちらの一般男性をおっと! なんと鶏に変えてみせました! 両腕をピシッと体につけ鶏らしく首を動かし、おっと、はははっこれは見事な鳴きっぷりいいぃぃ!
さぁ、迎え撃つはオオカワ氏。鶏となった男性の首を掴み……おおっと、素晴らしい!
鳥は鳥でも俺は飛ばせるぞと、なんとおお! カラスでしょうかその鳴き真似は!
そして! なんと! 空を飛んでいます! 両腕を翼に見立て、男性が今、会場内を飛んでいます! これはすごい!
催眠術とはいえ、果たして人間にこんなことが可能なのかあああぁぁぁ!
しかし、我々は現にこの目で見ているぅ! これが思い込みの力! 人間の可能性は無限大!
さあ、勝負あったというところでしょうか……いや、コヤマ氏、なんと今度はおおっとドラゴンでしょうか! 男性が火を噴き始めました! 空を飛ぶだけじゃない! こんなことが有り得るのでしょうか! 見た目は普通の男性だというのに!
催眠術とはこうも凄まじいものなのかあああぁぁぁ!
間違いなく世界最高峰の催眠術師の二人!
しかし、対決である以上勝者を決めねばなりません! 会場の皆さんの投票結果はいかに!
さぁ勝者は……おっと、ははは困りますよお客さん。ステージに上がっては……え、三人目? なんとこの男性! 自分こそが最高の催眠術師だと! 飛び入り参加です! さぁ、しかし何を見せてくれると言うのか! あの二人以上にすごいものなど、おっと! 指を鳴らしました! なにが、なにぃ! ここまで対決に付き合ってくれた一般男性の姿が消え、いや、なんと! 会場のお客さんまでも消えてしまいました! 一人もいません! なんということでしょう! え、なに! 初めからいなかった!?
こ、これは素晴らしい! 私は、いえ私たちは全員、あの三人目の催眠術師の手のひらで踊らされていたああああぁぁぁぁ!
まさに釈迦の手のひらの孫悟空! 圧倒的格の差! 我々は彼のその指のなすがまま! 逃れることはできなあああぁぁぁい!
これにはコヤマ氏もオオカワ氏も意気消沈! 項垂れるしかありません!
勝者は三人目の彼! おおっと! 彼が今再び指を鳴らしまし」
指を鳴らし、術が解かれると彼はぼんやりと辺りを見回し瞬きをした。
ここには誰もいない。そう、彼以外誰も。
波の音は歓声の代わりにはならず、頭上には一羽の鳥の姿もない。
乗っていた客船が沈没し、この無人島に漂着してからというもの彼は自分の腕を磨き続け、世界最高の催眠術師になったと自負しているが、かける相手がいないから確かめようがないのだ。
それが催眠術なのか、ただの妄想なのかも……。




