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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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あの時の僕

 子供の頃、たった一度だけ幽霊を見た事がある。

 その時、僕は積み木遊びをしていた。

 母親は買い物に出かけ、家にいるのは僕一人。作った積み木の城を豪快に崩した瞬間のことだった。

 目の前に足が現れたのだ。

 その足先は床に座る僕の視線の高さにあった。つまり浮いていたのだ。

 事態が飲み込めない僕はそれでも理解しようとゆっくり視線を上げた。


 目が合った。


 男だ。三十代くらいだっただろうか。恐ろしく剥いた目で僕を見下ろして、ピンポン球が入りそうなくらいぽっかりと口を開けていた。

 多分、それを見た僕も同じように口を開けていたと思う。

 僕のその口から悲鳴が飛び出す直前、その男は消えた。火が消えた直後の蝋燭から立ち昇る煙を吐息が撫でたように霧散したのだ。


 帰宅した母に一連の流れを話すと母はひどく気味悪がった。

 そしてこれだから中古の家は……と顔をしかめた。

 でもそれだけだ。お祓いだの引っ越しだの対策はしなかった。ああは言ったものの信じていなかったのかもしれない。

 僕はそれからしばらく、家にいるときは常にビクビクしていたのだが、でもその日以降、男が現れたことはなかった。


 そう、あの男は。

 あれから月日が経ち、僕の目の前に突然現れたものがあった。

 幼き日の僕だ。あの日、あの時の。

 そして、あの時と同じように積み木の城を崩した瞬間、幼い僕が僕を見上げた。


 僕は理解した。

 あの時、その座り位置からは見えも、想像もできなかったんだ。

 

 僕の首にかかったロープも。こんな未来も。

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