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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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夜明けを待ち続けて

 瞼を開くと波の音が私を出迎えた。

 今日は風が強いらしい。けれどいい天気のようだ。我が子の頭に手を置くように温かな太陽の光が屋敷をかかっている。


 今日もまた、今日が始まる。

 まずは坊ちゃまのお部屋へ。

 嵐と遊んだかのようだった。散らかった服とオモチャを片付ける。眠りに着くまでの様子が手に取るようにわかる。遊び盛りだった。


 次はお嬢様。色々気になるお年頃だったため、他の者がお部屋に入るのを余り好まないようだ。

 なので片付けは最小限に速やかに行う。

 ……と、一つ、真珠のイヤリングを見つけた。

 オシャレをしたかったのかもしれない。涙の一滴のようだった。


 その次は奥様のお部屋。散らかっているのはドレッサーの周りだけ。倒れた化粧品たちを丁寧に並べる。

 

 最後は旦那様のお部屋。ここはただ見るだけ。旦那様は勝手に物を動かされるのを極端に嫌う、少々神経質なお方だった。だからこのお部屋はあの日と変わらぬまま、でもそれがいい。


 日が沈むと一家は目覚める。


 旦那様の慟哭。

 奥様のヒステリックな叫び。

 坊ちゃまの無邪気な笑い声。

 すすり泣くお嬢様の声。


 それを子守唄に私は眠りにつく。


 あの惨劇の日から、ほとんど何も変わらない家。

 遺産を引き継いだ旦那様の弟様のお陰だ。私の意向を汲み、この家を残してくださっているのだ。

 私が壊れるのが早いか、それともあの方たちがこの世に未練を無くし、旅立つ日が来るのが早いか、どちらだろうか……。


 アンドロイドはギギギと音を立て、瞼を閉じ、休眠状態に入った。

 夜明けか、決して来ないお呼びを心待ちにして。


 風に撫でられ雨に打たれ、屋根に空いた穴からは刺すような陽射し。

 灰黒の屋敷。誰の記憶からも忘れ去られ、その身ごと風化していくその様を遠目に、人は呟く。まるで幽鬼のようだ、と。

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