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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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みんなの世界

 ある日のことです。動物たちが一斉に人間の言葉を話すようになりました。

 鳥や牛や豚に犬に猫に、とにかくたくさんの。ただし、言うことは似たり寄ったり。ただ、それは彼らの知能が低かったからではなく……


「嫌だ!」

「痛いよ!」

「殺さないで!」

「ここから出して!」

「食べないで!」

 

 特に鶏ときたら、やかましいことやかましいこと。

 養鶏場に限らず、動物に携わる仕事をする多くの者が心を病み、仕事を辞めたり首を吊りました。

 彼らが、どうして人間の言葉を話せるようになったのか、偉い人や頭の良い人が調べてもわかりません。

 何もわからぬままとりあえず、と動物を食べる事は禁じられました。

 不満の声は、さほど上がりませんでした。

 何より、人間側が拒否反応を示したのです。(一部ではこっそりと動物の肉が出回りましたが、見つかったら逮捕されました)


 みんな、大変困りました。これまで当たり前に食べていたものが食べられなくなってしまったのです。

 でも大丈夫。他の物を食べれば良いのです。

 しかし、しばらくすると今度は一番人気である魚介類までもが人間の言葉を話すようになったのです。

 これには人間だけでなく鳥や熊も困りました。

 本当は気にしなくても、周りの人間に知られたら非道呼ばわりされてしまうのです。

 なので、魚が大好きな鳥や熊は他の食べ物を食べることにしました。

 一番困ったのはおすし屋さんです。こんな世の中になって乱立した動物愛護団体の一つに、店に火をつけられました。

 魚が喋るようになるまでは上手くいっていたのに結局、よそと同じように首を吊りました。

 しばらく経っても世の中は落ち着きを取り戻しません。


 そんな中、今度は虫たちまで人間の言葉を話すようになったのです。

 これにはとても困りました。何せ彼らはそこらじゅうにいるのです。

 小さな体相応に声は小さいのですが、それでも耳障りでした。

 多くの人間が気が狂い、そして自殺しました。


 そんなある時、カラスが虫を食べているところが目撃されました。


「おい、カラスよ。どうして虫を食べるんだ? 今、彼ら必死に命乞いしてたじゃないか」


「気にすることないさ」


 カラスは高らかに笑いました。


「ふーん、じゃあ、お前たちを食べても文句はないのか?」


「いいとも、ただし手厚く扱ってくれたらね。僕らがヨボヨボの年寄りになるまで」


 こうしてカラスたちは専用のおうちを与えられ、餌やおうちの掃除、身の回りの世話など優しく扱われました。

 年老いて死んだカラスの肉など美味しいのかと思いますが、他に食べて良い肉などない上に、堂々と肉を食べることができるのです。人間は喜びました。

 これを耳にした鶏や他の動物たちも保護してくれと声を上げます。

 食べてはいけないとされた彼らは、ほったらかしにされていたのです。

 このまま数が減り、種の存続が危ないとなれば、食べられる代わりに手厚く扱われたほうが良いと考えたのです。


 こうして何十年と経ち、世の中が少しずつ元の形に近づくと、やがて声は聞こえなくなり、元通りになりました。

 肉も魚も食べます。虫も殺します。

 でも以前よりちょっとだけ命に優しくなったのです。




 その様子を宇宙船から見ていた者がいました。


「あーあ、お偉いさん方が議論しているうちにタイミングを逃しちゃったじゃないか」


「仕方ないさ、そもそもこの作戦、意見が割れていたからな」


「僕は気に入ってたんだけどな。人類が何を食べたら良いか困っているときに颯爽と僕らが現れ、最高の食料を提供する」


「そして、代わりに人間の死体を頂く。やがて死にかけの老人、犯罪者など徐々に要求を上げていくって作戦だったな」


「そ、彼らがしていたように手厚く管理して肉を提供してもらうってのがいいと思うんだけどな」


「不確定の上に時間がかかるからな」


「だから、そのタイミングを待っていたっていうのに……」


「いいじゃないか、結局、武力行使の案が通ったんだ。さ、一度星に帰り、準備を進めよう」

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