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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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227/705

そのレバー

 国の東部に在する研究所にて、ある実験が行われようとしていた。

 物々しい装置が立ち並ぶ部屋で、一人の研究員が腕を伸ばし、装置の上部に備え付けられているレバーに手をかけている。

 その彼を後ろから眺める博士が言う。


「いいか、助手よ。そのレバーを引けばゲートが開き、異なる次元と交わる。

奇怪なる化け物かあるいは神との邂逅。恩恵か、はたまた破滅を齎すかもわからない。しかし、だ……」


「探究心ですね。博士」


「そうだ。そこに未知なる物への可能性がある限り、手を伸ばさずに入られないのだ。

場合によっては国が、世界が終わるかもしれないがな」


「構いませんね。騙し騙し予算を引っ張ってきましたがそれも、もう限界ですもんね。

そろそろ我々の命も危ない。しかしいいんですか? 博士ではなくて私がこのレバーを引いて」


「かまわない。同じ思想の君を助手に迎えられて幸運だった。その礼だ。さ、遠慮なくやってくれ」


「では、行きます!」


 助手はレバーを引いた。ガコンという音がした後、機械が唸りだし、とてつもない振動を襲った。電球は異常なほど光を発しており、それはどんどん強くなっていく。あるいはその光は電球ではないのかもしれない。異界のゲートが開き、世界が混じり合っているそのせいなのかも。

 眩しさに目を瞑った助手は倒れかけ、電車のつり革に体重を預けるようにレバーに身を任せようとしたが、ハッと違和感に気づき、足に力を入れて踏ん張った。


 ……レバーが戻っている。なぜだ? 確かに今、引いたはず――


「さ、遠慮なくやってくれ」


 博士の声だ。振動も光もないようだ。白昼夢を見ていたのだろうか。

 いや、緊張と不安があったことは否定しないが、それにしては変だ。

 確かにレバーを引いた感覚が腕にまだ残っていた。


「はか……」


 目を開けた助手は振り返り、言葉を呑んだ。

 博士の顔、つい先程よりも老けているように見えたのだ。髪は薄く、肌のシミは増え、歯並びまで悪くなっている気がする。

 見落としていたのか? 連日の疲れのせいで気づかなかったにしては大きな変化に思える。


「さぁ、どうした? レバーを引くんだ」


「あ、はい……」


 疑念を抱いたままだが、助手は博士に促されレバーを引いた。

 先程と同じく激しい振動と眩しい光。そして……


「さ、遠慮なくやってくれ」


 振動と光が収まり、目を開けると先程と同じ声。いや、少し掠れていた。

 振り返ると博士は杖をついて立っていた。


「どうした?」


 おかしい、明らかに変だ。レバーを引いた影響? 失敗? いや、成功か? これが? 私はどうだ? 変化はあるか?

 思考を巡らせる助手。しかし、ドンドンドン! という激しいノックの音で打ち切られた。


「奴らだ! 我々を拘束しに来たな! さぁ! 早くレバーを!」


 博士の剣幕に気圧され、助手は再びレバーを引いた。

 眩しい光に目を閉じる……。


「びゃあ、れびゃーを」


 まただ。また巻き戻っている。

 博士は車椅子に座って助手を見上げていた。

 その顔にはもはや威厳も聡明さもない。

 何か良くないことが起きている。中止した方が……。

 助手がそう思ったのも束の間、ドアが破られた。


「動くな! 大人しくしろ!」


 そう言うと同時に武装した兵士たちは銃を発砲した。

 助手はそれに驚き、反射的にレバーを引いてしまった。

 迫る銃弾。しかし部屋は光に包まれる。

 良くないほうに進んでいる。そうとわかっていながらも、他にどうすることもできない。今更引き返せないのだ。

 そして世界がまた交わる……。



 と、助手は光の中で、ある声を聞いた。

 神。化物。天使。悪魔。否、そのどれとも違った幼い声。


「あーまたハズレだよ! このクソガチャ!」

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