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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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降り立った宇宙船

 ある日、巨大な宇宙船が地球に降りた。

 いや、不時着したと言ったほうがいいかもしれない。先端から地面に突き刺さったのだ。

 途轍もない振動、吹き上がる土埃。幸いなことに、あるいは狙い通りか、そこは人が暮らしていない地域で、被害はなかった。

 さっそく宇宙船が降りた国、その発展途上国を手伝うという建前で各国がこぞって現地に調査団を送り込んだ。


 そして、世界中の注目が集まる中。宇宙船の扉が開き、中から人型の、けれども一目で宇宙人とわかる風体の者が降りてきた。

 息を呑み、宇宙人の一挙一動を見守る一同。何を喋るのか。友好か、侵略か。そもそも言葉は通じるのか。


「……ラウラウラカンコパ」


 その不安は的中した。フッと笑いが漏れるほどに何を喋っているのかわからない。それにどうも衰弱しているようだ。宇宙人はよろよろと歩き、やがて地面に座り込んだのだ。

 各国は協力し合い(勿論、利益の分配を約束して)宇宙船の近くに治療施設を建設した。

 必要以上に慎重に、時間をかけて療養してもらうと共に言語の翻訳に力を注ぐ。

 持つ者は知恵を振り絞り、これまで培ってきた技術を合わせ、持たぬ一般市民は回復を願う、祈りを捧げた。

 この時、人類の思いは一つとなったのだ。


 だが、結果として宇宙人に地球の言語を覚えてもらうほうが早かった。

 徐々にだが元気を取り戻してきた宇宙人と拙いながら言葉を交わし合い、宇宙船の中にあった物。果実やら宝石といった財宝の類、その全てを貰い受けて良いと了承を受け、人々は小踊りした。

 博物館を建設し、お宝の類はそこに展示。果実はその種から大量に栽培された。

 そう、宇宙人が持ってきた様々な種類の果実。どれもこれも果汁以上の唾液が溢れるほどの美味。やはり食に対する情熱は世界の国々、どこも持っているようで、その強く求める声に応え、すぐさま流通された。

 それだけではない。さらに驚くべきはまるで風船が膨らむように大きく、そして簡単に増やせる培養肉に、泥水だろうと海水だろうと溶かすだけで何とも美味な液体に早変わりする錠剤など地球の食糧問題を解決するために持ち込まれたような品々。それらも研究し、量産化。

 世界は以前と比べ平和になり、人々はあの宇宙人にそう、まるで神が遣わした救世主なのではないかと思うほどに感謝したのだった。

 そして月日は流れ……。


「どうですか調子は」


「ええ、助かりました。ずいぶん長いこと宇宙を彷徨っていたのデ、もう、駄目かと思いましたガ、完全回復です」


「それは良かった。しかし、訊いてもいいですか……? 彷徨っていたとは?」


 流暢に話せるようになった宇宙人。

 さあ、いよいよ本題だ。このために人々は協力し合ったのだ。

 この宇宙人について、これまで様々な仮説が立てられていた。

 それは突拍子のないものや低俗なゴシップ誌のようなものまであったが、恐れていた事はこの宇宙人が島流しに、つまりとんでもない悪党だったらということだ。恩恵は受けたが楽観的に考えてばかりにもいられない。

 しかし、それだと果実やら宝やらを積んでいたのはなぜだという話にもなるが、島流しにした者が情けをかけた、あるいは奪って逃げてきたなど可能性は考えられる。

 何にせよ、悪党それならまだいい。相手は一人だ。どうとでもできる。

 それよりも病気持ちで星から追い出された。あるいは宣戦布告のために送り込まれた使者なのではないか……。


「ええ、実は私はあることをお伝えにきたのでス」


「その……ある事とは?」


 空気がピリつき緊張が走る。

 やはり宣戦布告か。


「ええ、宇宙船を降りたときに皆さんに申し上げたのですガ。……この星は選ばれたのでス!」


 宇宙人は両手を広げ、屈託のない笑みを浮かべた。

 それはこの場にいる者をホッとさせ、同じく笑みを浮かべた。


「いやぁ、ようやく安心できた」

「はははは、まったくだ」

「いやぁ、いい報せをお持ちいただいたようで何よりです」

「本格的な使節団はいつお見えになるのかなぁ、歓迎の準備をしなければ」

「これからもいい関係を築いていきたいものですなぁ」

 

 と、口々に言う彼らを見ながら宇宙人はニコニコしながら言った。


「うんうン。皆様が嬉しそうで私も嬉しいデス。偶然、いや運命ですネ。白羽の矢と言いましょうカ。

偉大なる星食い様の供物として私も皆さんと共にコの身を奉げる事ができることを大変、喜ばしく思いまス。

さ、お迎えの準備を始めまショウ。お供え物の果実などは増やしてくれましたカ? 味のアクセントになるのでス。ささ、急いデ。何せ、もう時間がないのですかラ」

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